小4男子が「才コン」で文部科学大臣賞を受賞 さなぎの命を守りながら蚕から糸をとる新たな方法を考案

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「全国児童才能開発コンテスト」の科学部門で、最高賞の文部科学大臣賞を受賞した小学4年生の八並伸之介さん(画像は『NHK』のスクリーンショット)
「全国児童才能開発コンテスト」の科学部門で、最高賞の文部科学大臣賞を受賞した小学4年生の八並伸之介さん(画像は『NHK』のスクリーンショット)

 

1ヶ月ほど前、「小学4年生がこんな素晴らしい工夫を思いつくとは!」「小さな生き物の命を大切に思う気持ちがすばらしい!」と大きな感動を呼んだニュースがあった。

話題になったのは長野県岡谷市の小学4年生の八並伸之介(やつなみ しんのすけ)さん。「野蚕を死なせずに糸をとる方法」を考案し、「才コン」こと、令和5年度の第60回 全国児童才能開発コンテスト・科学部門高学年の部で優勝したのだ。



才コンの主催は、公益財団法人・才能開発教育研究財団。昨年12月下旬に受賞作品が決定し、先月には表彰式が行われ、そこで八並さんは見事、最高賞となる文部科学大臣賞を受賞した。

「野蚕」とは野生の蚕のことで、八並さんの暮らす岡谷市では製糸業が盛んであった。繭(まゆ)を煮てから糸をとるのが一般的だったなか、八並さんは5歳のころから「中にいるさなぎを死なせることなく、糸をとる方法はないのだろうか」と考えるようになったそうだ。

そして8種類の野蚕の飼育に取り組み、このうち「ウスタビガ」という種類の繭の上部に穴があることを発見。八並さんはその穴から幼虫を取り出し別の場所で育て、繭だけを煮て2メートルほどの糸をとることができた。

 

八並さんは実験のなかで、ウスタビガの繭の構造が「外側が黄緑色で内側が紫色」という2層構造であることを発見した。信州大学繊維学部の梶浦善太教授はこれを、「専門家でもあまり知らなかった事実だ」と高く評価している。

また、八並さんは幼虫が無事育ってくれたことも喜んでいる。「死なせずに糸が取れると分かりうれしかった。蛾もかわいくて美しいです」と話し、将来は、虫などの研究者になりたいという。



◆審査員のコメント

5年前から野蚕の卵や幼虫を採取し成虫に育てているこの児童は、ウスタビガという蛾を飼育する中でやってみたかったことが、野蚕を死なせることなく繭から糸を取ることでした。さまざまな試行錯誤の結果、作り始めから4日経過した繭から、2mの糸を取り出すことに成功します。

 

昆虫に対する、命を大切にすることを含めた思い入れ、繭から糸を取るという難しいことへの挑戦など、いろいろな点で高評価の作品でした。最近、蛾の研究が盛んになってきていることもあり、さらなる研究の進展が楽しみです。

◆あまり知られていない蚕・繭そして糸

蚕が作り出す繭から生糸を生産する養蚕業は、残念ながら化学繊維の登場で衰退の一途をたどってしまったが、現代はむしろ医療分野において注目を集めるようになっている。蚕は一匹、二匹と数えられるのではなく、大切な家畜と同様に一頭、二頭と数える習わしがあるそうだ。

農薬などが付着していない桑の葉を室温25℃以上の環境で20枚ほど与えられ、それを食べ切った蚕は頭を振るようになり、2~3日かけて糸を吐き出す。それが繭となって自身はさなぎになり、やがて繭を突き破って羽化すると蚕蛾(カイコガ)になる。

さなぎを死なせることをしっかりと受け止め、その命に感謝しつつ、成虫になる前に繭を煮て糸を取り出す ― これが長きに渡り続けられてきたという。



◆受賞者の言葉

ぼくの住む岡谷市は、製糸と養蚕が有名なので、蚕は身近な昆虫です。ぼくも蚕糸博物館でいただいた蚕を育てて糸取りをしました。糸取りの時、まゆの中のサナギは死んでしまいますが、食用やつりのエサとして有効活用されています。

 

でも、成虫のガはモフモフでとてもかわいくて美しいのです。だからなんとかして糸もガも両方よくばれないかとずっと考えてきました。

 

ぼくは昆虫が大好きです。一年中家の中は様々な種類の虫だらけです。そして毎年山や森で野蚕をつかまえて育てています。野蚕は種類も多くまゆの形もちがうので、もしかしたらガを生かして糸取りできる種もあるかもしれないと目をつけたのが、ウスタビガでした。量は少ないけれど野蚕を死なさずに取れる糸が発見できてうれしかったです。

 

実験も観察も記録もとても大変でした。でも、12月、実験でまゆから出したサナギからどんどん羽化してくるウスタビガを見ることができた時、ぼくの研究は大成功だと思いました。ウスタビガは、思っていたより小さくて、他の野蚕よりも毛がフサフサで、想像以上にかわいかったです。

 

ぼくの研究で、野蚕がかわいい!と思ってくれる人がいたらうれしいです。

 

◆まとめ

痛い、熱いと悲鳴を上げることもできない小さな生き物にも、思いやりの心を向けた八並さん。将来は必ずや、立派な生物学の研究者さんになってくださるように思う。

八並さん、本当におめでとうございます!

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論文の全文はこちらからご確認を
https://www.sainou.or.jp/contest/display/science/60/02.html

(朝比奈ゆかり/エトセトラ)

画像および参考:
『NHK』「野蚕」死なせずに糸をとる方法考案 小学生が文部科学大臣賞 2024年2月19日

『才コン』文部科学大臣賞(高学年の部)野蚕を死なせずに糸を取る方法を考える

『Lab BRAINS』蚕(カイコ)とは?蚕の一生、繭の糸を取り出す方法などを解説