中学生のトンボ博士・内山旬人さんに注目集まる! 2年前に自然科学観察コンクールで文部科学大臣賞に  

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4年前から殆ど未知だったキバネツノトンボについて生態を調べ、研究論文で次々とコンクールに入賞した内山●●さん(画像は『Yahoo!ニュース』のスクリーンショット)
殆ど未知だったキバネツノトンボの生態を調べ、研究論文が文部科学大臣賞に輝いた中学2年生の内山旬人さん(画像は『Yahoo!ニュース』のスクリーンショット)

 

茨城新聞クロスアイが、このほど弱冠14歳の昆虫博士を紹介した。小学校6年生にして絶滅危惧種・キバネツノトンボの生態研究で論文を発表し、なんと「第62回 自然科学観察コンクールで文部科科学大臣賞」に輝いたという。



注目が集まっているのは、茨城県小美玉市在住の中学2年生・内山旬人さん。自然観察を趣味とする市民団体「小美玉生物の会」に所属するなか、小学6年生だった2020年の春、黄色い鮮やかな紋様が特徴のキバネツノトンボを見つけた。

アミメカゲロウ目ツノトンボ亜科の昆虫であるキバネツノトンボは、実はトンボではなく、ウスバカゲロウ(アリジゴク)の仲間。図鑑には「生息地は本州、九州」とあり、東京や埼玉を含む15都府県では絶滅危惧種とされていた。

内山さんは、小美玉市でも自身の目で稀にキバネツノトンボを目撃していたことから、「生息する分布域の通説は正しいのだろうか」と疑問を感じ、専門家の意見を集めながら研究を進めることにした。

図鑑を読みあさり、九州大をはじめ全国の大学、博物館の研究者に九州産キバネツノトンボの標本の有無について問い合わせを行っていたなか、「北九州市立いのちのたび博物館」の学芸員である蓑島悠介(みのしま ゆうすけ)氏が協力を申し出てくれた。

論文の作成手順やルールなどを簑島氏に教わった内山さんは、筆頭著者として、発見時の天候や状況、そして観察の様子を詳しく、かつわかりやすい言葉で過不足なく綴っていった。

その時の状況、発見、観察をあくまでもわかりやすい言葉でまとめ、的確に真実を報告する内山さんの論文(画像は『シゼコン』のスクリーンショット)
その時の状況、発見、観察をあくまでもわかりやすい言葉でまとめ、的確に真実を報告する内山さんの論文(画像は『シゼコン』のスクリーンショット)

 

様々な視点で生態調査を続け、結果をデータ化していった内山さん。ついに全国の小・中学生を対象とした「シゼコン」こと自然科学観察コンクールに『キバネツノトンボの研究 2nd season -成虫の生態についてII-』というタイトルで論文を発表し、2022年3月、特賞となる文部科学大臣賞を受賞したという。

第62回シゼコンで優勝した内山さんと提出された研究作品(画像は『OLYMPUS』のスクリーンショットを合成)
第62回シゼコンで優勝した内山さんと提出された研究作品(画像は『OLYMPUS』のスクリーンショットを合成)

 

◆審査員に国立科学博物館・動物研究部長

その年の審査員の一名が、日本昆虫分類学会の副会長を経て国立科学博物館・動物研究部の部長になられた友国 雅章氏。「審査評」をご紹介させていただきたい。

2020年、内山君が小学5年生の時に始めたキバネツノトンボの研究で、成虫の出現期、好適な生息環境、飛翔力と活発な時間帯、捕食行動、交尾行動、メスの産卵習性、幼虫の孵化とその後の行動など多くの観察例を積み重ねてきた。

 

しかし、その生活史をすべて明らかにする上で重要な羽化の様子は観察できていない。そこで3年目の今シーズンは「羽化」にテーマを絞って観察したのがこの研究である。

 

過去の経験から羽化の時期や場所を推測して探した結果3例の羽化とその後翅が伸びきるまでの行動の観察に成功し、更にその周辺で羽化殻や繭も発見した。今シーズンも様々な新発見があり、キバネツノトンボ生活史の全容解明にまた一歩前進できた。

 

キバネツノトンボは全国的に見ても生息地が非常に限られており、どこにでもいる昆虫ではない。そのため、その生態については未解明な事柄が多く残されている。内山君の住む小美玉市には本種の生息地が点在し、個体数も比較的多い。

 

そのような地の利を十分に生かして本種の全生活史の解明に迫りつつある。この論文の内容を高く評価するとともに、今後の更なる発展に期待したい。

 

◆お母様とみられる方も始終サポート

さらに、調査や研究をずっと指導された、内山 えりかさんという方の感想も紹介されている。小学5年生で研究を開始したのでは、各種のデータをご家族がパソコンで管理しておく必要があるだろう。えりかさんは旬人さんのお母様であろうと思う。

今季は、昨年度レポートの中で今後の課題の筆頭に上げた、自然の中での羽化シーンの発見が、3年目にして叶いました。素朴な「観察」がベースであることに変わりはないですが、これまでの研究活動の中で見てきたこと、考えてきたこと、教わってきたこと、経験のすべてが組み合わさって前進してきたその先にて、ようやく辿りつけたものです。

 

彼は、この昆虫の観察では、(質はともかく、数や時間といった)量ならきっと誰にも負けないと思います。今では、飛んでいる様子を見るだけで、オスかメスか、何をしているところか、羽化からどのくらいか、など、概ねわかるようです。

 

間違いや失敗も含めた経験が、何ひとつ無駄にならず、新しい発見に繋がってきているのだろうと思っています。この昆虫の羽化に関する詳細なレポートは、おそらく国内初かと思います。ワクワクする様々なシーンに立ち会わせてもらってきていることに、とても感謝しています。 内山

 

◆その論文を元に次の研究が

内山さんが研究論文に書いたことは、私立名門御三家の一校として知られる、武蔵高等学校中学校で生物科を指導しておられる白井 亮久氏に継がれていった。

白井氏は2022年、内山旬人さん、内山えりかさんを共著者に迎え、『武蔵高等学校中学校収蔵の戦前の東京産キバネツノトンボ標本とその生息地』という題の論文を発表したのだ。

内山さんの論文がきっかけで武蔵高等学校中学校の生物科が次なる研究を(画像は『●●●』のスクリーンショット)
内山さんの論文がきっかけで武蔵高等学校中学校の生物科が次なる研究を(画像は『武蔵学園学術機関リポジトリ』のスクリーンショット)

内山さんの論文がきっかけとなって、同校が所蔵していた昆虫の標本を確認してみたという白井氏。そこにキバネツノトンボが存在することを知り、さらに東京都中野区にある和田山が本種の原生的な生息環境であった可能性をつきとめた。内山旬人さん、内山えりかさんの協力を得て、同地でその後、なぜキバネツノトンボが消滅したのか環境の変化を追い、論文にまとめたもようだ。

 

筆頭著者の白井氏により、「謝辞」にはこうある。

本研究は,2021 年当時小学 6 年生であった内山旬人(内山,2021)に関連し,内山らが調査活動の中で本校紀要4号掲載のキバネツノトンボ標本に気付いたことがきっかけとなり,標本の公表の運びとなった。また,福田泰二武蔵学園記念室名誉顧問と東馬加奈元専任教諭には,本校収蔵の植物標本についての未発表データの使用のご快諾を頂き,社会科の亀岡岳志教諭には,学校周辺の土地利用の変遷についてご教授頂いた。なお,本校の個人研究費(「標本庫で、研究する(その1)」2021 年度,白井亮久)を使用した。



◆まとめ

昆虫好きの少年が放った論文が全国1位に輝き、多くの大人がその昆虫に関心を示し、自身の研究と照らし合わせるなか別の視点が生まれ、さらに様々な情報を加えていく。生物学の研究とは、常に大きな可能性を秘めた素晴らしい世界であるようだ。

内山さんの研究はこの春で5年目となり、次の課題は「飼育している個体の羽化」だそうだ。4月になれば、キバネツノトンボの成虫が姿を現すだろうという。シゼコンも、文部科学大臣賞も、そして科博の友国 雅章氏も、こんな研究熱心な少年少女の研究論文を待っていたはずだ。

内山さん、本当におめでとうございます!

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論文の全文はこちらからご確認を!
https://shizecon.net/award/detail.html?id=627

 

(朝比奈ゆかり/エトセトラ)



画像および参考:
『自然科学コンクール』キバネツノトンボの研究 3rd season -羽化について-

『Yahoo!ニュース』中学生の論文、公開へ キバネツノトンボ生態研究 茨城・小美玉の内山さん 分布域に問題提起(茨城新聞クロスアイ)

『武蔵学園学術機関リポジトリ』武蔵高等学校中学校収蔵の戦前の東京産キバネツノトンボ標本とその生息地

『オリンパス』第62回自然科学観察コンクール(シゼコン)受賞者が決定 2022年4月22日