「宮内庁のグダグダさが腹立たしい」と一級建築士さん 豊明殿・雨漏り対応の職員さんが事故死した件で

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少し前に執筆した『皇居・豊明殿で起きた職員転落死の事故に新たな真実 大手建設会社がわずか2年1ヶ月前に修繕工事済だった』という記事が、大きな反響を得ていた。「あれほどの建設会社が2年で朽ちるような仕事をするものか」「なぜ職員が長いことバケツで対応しているのか」という声が圧倒的に多いと感じる。

さらに、その事故のニュースが報じられた当時にも、多くの方が「そんな高い場所の作業をたった1人でやること自体がおかしい」「予算をたっぷりと組んでいるのに、晩餐会を催すほどの豊明殿でなぜ…」と、事故そのものや宮内庁のやり方に疑問を感じておられたことを知った。

 

そんな中、この件について一級建築士さんがメールでご意見を寄せて下さった。昨年9月20日付の『秋篠宮邸なぜ改修・増築工事に50億円も…? 一級建築士さんは「工事費の融通が新たな財布かも」と』という記事で大変お世話になったNさんである。

Nさんのご意見をほぼ原文のまま、ご紹介させていただきたいと思う。

 

◆随意契約書について

豊明殿の工事について、建物を維持管理する一般的な感覚から、ちょっと変だと思うことがいくつかあります。

まず、随意契約書の工事件名が「裂地張替ほか工事」となっていることです。屋根の雨漏りと天井クロスの傷みでは、雨漏の方がはるかに重大です。ところが、それが「ほか工事」になっているのが変です。金額も低すぎます。

鹿島建設が行った雨漏りに対する下天井裂地張替ほか工事、たった2年でダメになるものだろうか(画像は『宮内庁』PDFのスクリーンショット)
鹿島建設が行った雨漏りに対する下天井裂地張替ほか工事、たった2年でダメになるものだろうか(画像は『宮内庁』PDFのスクリーンショット)

 

随契理由については、下のように示されていますが、9月9日に契約していることから、8月頃に10月の行事日程を検討している中で、雨漏りによる天井裂地(クロス)の染みの対策が必要となり、あわてて張替工事を手配した印象です。

本工事は,宮殿豊明殿の陸屋根防水が劣化したことにより,その下部にある豊明殿西廊下天井で漏水が発生し,天井裂地に漏水染みができてしまったため,裂地の張替及び陸屋根防水修繕工事を行うものである。

 

豊明殿西廊下は,令和元年10月22日から行われる饗宴の儀において御使用になる廊下であり,宮殿内では即位礼正殿の儀に伴うリハーサルが10月中旬に頻繁に行われるため,これらの事由を考慮すると,本件工事は10月初旬には完了する必要がある。

 

工事期間は,3~4週間程度必要なことから,緊急に契約を締結し,着手する必要がある。 鹿島建設株式会社は,同種の工事実績(「平成27年度宮殿豊明殿保 全整備工事」)があり,工事内容や作業段取りを熟知し,資機材及び人員の調達が早急に可能な唯一の業者である。

 

以上の理由により,会計法第29条の3第4項及び予決令第102条の4第3号に基づき,上記業社と随意契約を締結する。

 

◆本当に漏水工事をしていた?

雨漏りは、天井クロスのシミだけでなく、建物の構造を支える鉄骨を錆びさせたり、コンクリートを劣化させるために、一般的には時を置かずに対応します。前記随契書では、工事期間の少ない中で「応急的な陸屋根防水修繕工事」が行われたと推測します。

雨漏りは予期せずに起こるので、応急処置をした後、本格的に防水修繕工事をするものです。随契理由にはあたかも「防水修繕工事を契約」したように書かれていますが、鹿島建設といえども、これほど短期間で安価な防水修繕工事はできません。

また、契約から工事までがあまりにも短期間なので、裂地も既存と同じものを準備できなかった可能性もあります。仮に、鹿島建設が責任施工(※)で雨漏り対応工事をやったのに、わずか2年1ヶ月で再発したのであれば、すぐに対応させるのが一般的です。

 

(※)責任施工について

工事前の調査診断や修繕工事設計、見積もりから施工業務まですべての工程を一つの施工会社に一括発注することを「責任施工」といいます。防水工事は専門性が高いので、責任施工が多いです。

また、雨漏りを止めるために防水工事を依頼したのに雨漏りが再発した場合は、「契約不適合責任(2020年4月民法改正以前は瑕疵担保責任)に基づいて、補修を依頼することが可能です。雨漏りの再発が前回に防水工事をした内容ではなく、新たな原因で起こる場合も有りますが、建築物は計画的に造られているので、雨漏りが無くなるまでとことん追求します。

 

◆雨漏りを軽視してバケツ対応という維持管理意識の低さ

「宮内庁職員が雨漏りを受ける天井裏のバケツを確認する時に、誤って3m高さの脚立から転落して亡くなった」というニュースは大変衝撃的でした。

2人1組でやっていた作業が、1人が休暇のため1人だけで行われていた。「天井裏の雨漏りを職員がバケツで対応する」と決めて、どの位の期間続けていたのでしょう。昭和のボロ家ではなくて、饗宴が行われる皇居の豊明殿の廊下の出来事ですよ。まるで “穴の開いた傘をさし、着飾って歩くようなちぐはぐさ” ですね。

正規、不正規にかかわらず、職員の仕事の一つとしていたことに呆れました。1人で作業させるのではなく、他の人に手伝ってもらい脚立を支えられなかったのか、日にちを変更できなかったのか…。部署の安全管理体制はどうだったのか…。

 

◆建てるのは得意でも計画的な維持管理が苦手

宮内庁が管理している建造物などは、皇居の他に、御所・離宮、御用邸、牧場、陸墓など実に多様です。けれども、近年に建てられた宮殿などは、定期的に維持管理をすることで、雨漏りなどは少なくなります。

例えば民間のマンションなら長期修繕計画を作り、およそ10年ごとに大規模修繕を行います。宮内庁に、修繕工事などを専門的に担当する職員はいるのでしょうか。雨漏りによる裂地のしみが重大なことだといった知識がないまま、漫然とバケツで対応していたのでしょうか。

官公庁の多くは、建造物などを造るのは結果が目に見えるので得意なようです。けれども、計画的な維持管理は苦手な傾向なのは、単年度予算や人員の異動、維持管理の重要性を理解し、継続的に全体を見渡して修正していく人がいないことによると思っています。

 

もしも「裂地張替ほか工事」の時に、あるいは10月の饗宴の儀の後に本格的な防水工事が行われていたなら、バケツでの雨漏り対応といった仕事は存在せず、職員さんが命を失うこともなかった。そう思うと腹立たしさが治まりません。

人が代わっても継続できるように、人員の配置と長期修繕計画の策定を願うばかりです。

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以上が、一級建築士のNさんから頂戴したご意見である。

 

皇室および宮内庁の運営維持に関しては、年間あたり200億円近い予算が組まれてきた。

今年1月に宮内庁が発表した令和6年度の歳出概算要求書を見てみると、皇室費(皇室の御活動や皇室用財産の維持管理等に必要な経費など)が65億6,600万円、宮内庁の運営費用(人件費や事務費など)が119億5,000万円の計185億1,500万円とある。

さらに、皇室費だけに関する令和6年度歳出概算要求書を確認すると、21ページに「001 皇居等施設整備費」が。そこから数ページにわたって、皇族の住居や各施設の改修・修理・整備・調査についての記載が、このような感じでずらっと並んでいる。点検や調査もしっかりと行われているようだ。

改修、修理、整備などにしっかりと予算を組んでいる宮内庁。ではなぜ豊明殿の雨漏りを…?(画像は『宮内庁』PDFのスクリーンショット)
改修、修理、整備などにしっかりと予算を組んでいる宮内庁。ではなぜ豊明殿の雨漏りを…?(画像は『宮内庁』PDFのスクリーンショット)

 

こうして細かく設定された「施設整備費」の予算は合計で何億円にもなる。なのに、晩餐会を行うほど重要な豊明殿について、屋根の雨漏りを点検したり直したり費用が投じられなかったというのは、あまりにも…。

このあたりについて、最後にNさんにもご感想を伺ってみた。

「皇居の建物は国民の税金で造られた財産です。エンドレス工事の赤坂ベルサイユ御殿の容認が良い例ですが、責任者や専門家の存在が見えない宮内庁のグダグダさに腹が立ち、疑問は増すばかりです」とのことである。

(画像など編集/エトセトラ)

画像および参考:
『宮内庁』随意契約調書

『宮内庁』令和6年度概算要求について

『宮内庁』令和6年度歳出概算要求書 01皇室費所管(皇室費)

『エトセトラ・ジャパン』皇居・豊明殿で起きた職員転落死の事故に新たな真実 大手建設会社がわずか2年1ヶ月前に修繕工事済だった

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