建て替えの引っ越しに入る皇室・三の丸尚蔵館 所蔵品の紛失を防ぐため公正な第三者機関の介入を

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皇居三の丸尚蔵館が建て替え工事へ(画像は『NHK』のスクリーンショット)
皇居三の丸尚蔵館が建て替え工事へ(画像は『NHK』のスクリーンショット)

M子さんが望むメトロポリタン美術館(以下MET)就職のため、皇室所蔵の美術品がトレードに出され、そのまま戻らないということになりはしないかと危惧されている。なんと、このタイミングで皇居の三の丸尚蔵館が建て替え工事に入るそうだ。仮の収蔵庫に次々と移される大量の宝飾品や美術品が、ドサクサ紛れに窃盗被害に遭う危険性はないのだろうか。



■国宝や重要文化財ですら盗難被害に
2018年8月、『朝日新聞DIGITAL』は「国宝や国の重要文化財、都道府県の文化財に指定された美術工芸品の盗難被害届けが115件(国78件、18都道県で計37件)にものぼり、うち半数を超える58件は行方がわからず」と報じた。

盗難被害が頻発する国宝や重文(画像は『朝日新聞DIGITAL』のスクリーンショット)
盗難被害が頻発する国宝や重文(画像は『朝日新聞DIGITAL』のスクリーンショット)

2017年8月、大阪府能勢町の今養寺から2010年に盗まれた「木造大日如来坐像」がついに発見された。韓国籍の男2人が盗品等処分あっせんなどの疑いで逮捕されたが、転売を経て海外にわたったものは非常に多いという。

また、国立文化財機構の『東京文化財研究所』は、天草四郎時貞の「陣中旗」(重文)が1964年頃から行方不明になり見つからないこと、京都の教王護国寺が経済的理由で国宝・重文を含む50件の寺宝を多方面に売却していたことを公表。東寺の秘本『九旺秘暦』がニューヨーク市立図書館に売却されていたという事実は、長いこと誰も気づかなかったとしている。

すべての美術品をコンピューターで管理する現代とは異なり、昔は図録も収蔵庫の台帳もアナログで、セキュリティーシステムも万全ではない。盗まれたこと自体に気づかないこともしばしばだったそうだ。

 

■宮内庁は増築・改修を提言したが…
そして今月20日、『NHK』は皇居・三の丸尚蔵館が本格的な展示施設を設けることになり、4年後の全面開館を目指し、建て替え工事に入ることを伝えた。変化するのは施設だけではない。管理は国立博物館などを運営する「国立文化財機構」へ。早い話、どんどん門外に出ていくことになったのだ。

『NHK』によれば、宮内庁は増築や改修をと提言していたが、政府が建て替えを決定したとのこと。さらに彼らは、皇室関連施設や美術品を観光資源として活用し、ロイヤルコレクションを海外への貸し出しが可能になる国宝に「格下げする」と決定していた。

たとえば、昨年9月には皇室の所蔵品であった『蒙古襲来絵詞』、『唐獅子図屏風』、伊藤若冲の『動植綵絵』ほか5点が国宝に格下げされ、美術品の地方展示会も始まった。今後も数百点以上が国宝と化す見込みだが、繊細な紙や絹に描かれている書画は移送そのものが傷みにつながる。



 

■狙われるのは文化財の指定がなされぬままの御物
2018年、週刊ポストは昭和天皇(1989年に崩御)が約4,600件の宝飾品や美術品を所有していたとし、約3,200件は国庫に寄贈する形で三の丸尚蔵館へ、残りは平成天皇が相続したと伝えていた。

狩野永徳、葛飾北斎、円山応挙、伊藤若冲などの絵画、「蒙古襲来絵詞」などの絵巻物、聖徳太子画像や現存最古の万葉集写本など、値段すらつけようのない美術品が数多くあるという。

文化財保護法に基づき、重要なものをすみやかに国宝、重要文化財などに指定・登録する作業を行い、輸出に制限を設けるなどすればよかったのだろうが、美術品の2,500点ほどが国宝級・重要文化財級でありながら、窃盗の危険がないことを理由に未指定のままになっていることが指摘された。

美術史が専門の辻惟雄東京大名誉教授も、三の丸尚蔵館には国宝にも重要文化財にもいまだ指定されていない、「超国宝」というべき旧皇室御物が存在すると認めている。

そうしたロイヤルコレクションが国宝と化し、移送でダメージを受けることが予想されながら国外に持ち出されることに、国民や関係者からは怒りや失望の声があがっている。

 

■建て替えのドサクサで収蔵品は…?
『宮内庁』のホームページによれば、三の丸尚蔵館には皇室に代々受け継がれた絵画・書・工芸品などの美術品類に、故秩父宮妃のご遺贈品、香淳皇后のご遺品、故高松宮妃のご遺贈品、三笠宮家のご寄贈品が加わり、現在9,800点もの美術品類が収蔵されているとのこと。

その4分の1が文化財として未指定、かつ超国宝級のものもあるという状況で、仮の収蔵庫に向け、てんやわんやの引越しが始まるのはかなり不安がある。

展示品とその図録はともかく、収蔵庫に放置されている古い御物が、いまだアナログな台帳で管理されているということはないだろうか。もしもそれを紛失してしまったら完全にアウト。美術品が盗まれようが壊されようが、なす術もなくなりそうだ。

ここは、買収など一切起こり得ない公正な第三者機関の介入が必要だろう。厳正なるデータベース作りと、宝飾品、美術品、図録の長期にわたる管理と監視をお願いしたいものだ。

 

■まとめ・初孫への贈与は勝手だが…
今回、三の丸尚蔵館に収められたものはともかく、平成天皇が相続して所有する宝飾品や美術品も多々あることがわかった。つまり、孫のM子さんに価値の高い御物を贈与し、MET就職の手土産に持たせることは違法ではないのだろう。

ただ、M子さんがMET就職のために大変貴重なロイヤルコレクションを武器にするなら、その美術品の名称をしっかりと公表し、フェアな就職なのかをアメリカの人々にジャッジしてもらったほうがよいのではないだろうか。

METでいずれその美術品が展示されたら、日本美術の専門家ならおそらくピンと来る。そこで「ズル就職」と騒がれるようでは、日本人のイメージが悪くなるだけ。勘弁してほしいものだ。



画像および参考:
『朝日新聞DIGITAL』国宝や重文含む文化財、115件が盗難 半数は行方不明(2018年8月15日)

『東京文化財研究所』国宝重文の行方不明所有者変更など

『産経ニュース』盗品仏像、7年ぶり発見 関与疑いの2人逮捕

『週刊ポスト』皇室の財産 皇居の土地は23兆円、国宝級の美術品も多数

『NHK』皇居「三の丸尚蔵館」本格的な展示施設へ 建て替え工事を機に

『宮内庁』三の丸尚蔵館

(朝比奈ゆかり/エトセトラ)