【皇室、徒然なるままに】第37話:悠仁論文を斬る 西村 泰一

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秋篠宮家の長男・悠仁君が弱冠16歳にして関わったという『赤坂御用地のトンボ相 ―多様な環境と人の手による維持管理―』という論文。これは要するに「2012年から2022年まで、赤坂御用地内の生態系調査を行った結果、カクカク・シカジカのトンボがおりました」というだけの話かと思われるが…。



【男性と女性】

人間は男性と女性に二分されるということは誰でも知っている。では、ある程度服を着た状態で、眼前にいる人物が男性か女性かわかるだろうか? 大抵はわかる。しかし、こんなことを言うと、どこかからお叱りを受ける恐れがあると思うが(だから固有名詞は絶対に出さない)、女性アスリートなんかで、男性にしか見えない方がいるのも事実である。

また、性が倒錯してしまうこともある時代なので、女性よりも女性的な男性なんかも確かに存在する。それじゃ、裸にして性器を見れば、すぐわかるんじゃないかというかもしれないが、それも怪しい。極めて稀には性器の先天異常という治療を要する例もあるからである。

LGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)の問題などに強い関心を持つ人達からすると、「差別」ということになるのかもしれず、「外見で男女を見分ける基準をきちんと明文化する」というのは、なかなか大変な話であろう。

しかし、遺伝子のレベルに話を落として「Y遺伝子をもつかどうか」だけを男女判別の基準とすると、極めて科学的で厳密なものになり、恣意的なものが紛れ込む怖れもない。

これが、今回お話をする「生物学における分類学革命」なのである。

 

【生物学における分類学革命】

生物を科学的に分類する分類学の話は、すくなくとも古代ギリシャの哲学者アリストテレスにまで遡ることができる。アリストテレスは全10巻に及ぶ動物誌(ただし第10巻は偽書であると言われ、第8~9巻についても真偽について論争あり)を残しており、そこで彼の分類学を呈示している。

それによると、まず動物は「無血動物」と「有血動物」とに大別され、両者はさらに「ゲノス」という区分で分類される。無血動物は有殻類・昆虫類・甲殻類・軟体類から、有血動物は魚類・卵生四足類・鳥類・哺乳類の四種類から構成されるといった具合である。

いずれにしても、従前は生物の分類は形態を比較することで行われていた。分類が先にあって、そしてそれがどのように進化して枝分かれしてきたかを示す系統樹を作成する、という方法である。

これを大きく変えたのが、20世紀末に確立した分子系統解析の手法である。分子レベルで生物を分類するにあたっては、まず分子系統樹を作成して、これに基づいて分類する。それもDNAやアミノ酸の塩基配列を解析してやることで行う。

 

このあたりは、高校の生物の教科書にも記述があり、例えば数研出版の「改訂版 生物」(平成29年2月23日検定済)では以下のような記述がある。

近年、DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列などの分子データを比較して系統樹を作成する方法が盛んにもちいられるようになってきた。分子データを用いる利点は、非常に多くの数量的な情報が比較的簡単に得られ、その結果についての統計的な解析がしやすいという点にある。

 

また、生命活動の根幹に関わるようなタンパク質やその情報のもとになるDNAは幅広い分類群にわたる生物に認められるため、このような分子から得られるデータは、離れた分類群に属する生物間の系統関係を検討するためにも役立つ。例えば、光合成に重要な働きをする酵素である…

 

分子系統樹はDNAの塩基配列の変化の情報をもとに推定される。特定の遺伝子を構成するDNAの塩基配列を2種の生物間で比較すると、多くは同じだが異なる塩基もある。

 

これはDNAに突然変異が生じた結果であり、この違いの程度が小さい程2種の生物は近縁であると考えられる。こうした比較を多くの生物間で行うことは分子系統樹を作成する方法のひとつである。

 

分子系統樹の構築によって、大きく分類が変化した生物群も出てきた。その一例がユリ科の植物である。従来のユリ科は、単子葉植物の中では比較的原始的な系統形質でまとめられた分類群であったが、分子系統樹を構築した結果、目レベルの5つの系統に分散しており、従来のユリ科が、あまり形態を変えてこなかった植物の寄せ集めであることがわかってきた。

 

このように今日、色々な生物群で分子系統樹が構築され、系統を反映した分類の再編が進みつつある。

 

一方、悠仁君達の論文は、要するに2012年から2022年まで赤坂御用地内の生態系調査を行った結果、こんなトンボがいましたと報告しているだけのように思われる。現時点でこういうものを学術論文として書くのであれば、少なくとも次のことは絶対に必要である。

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1. まずトンボ目の分子系統樹を作成する。すでに誰かが作成したものがあるなら、それを引用する。トンボは全世界に約5,000種類、うち日本には200種類近くが分布していると言われている。色々と分子レベルのデータベースもできているので、参考にされたい。

2. 当該のトンボを単に目視で同定するのではなく、かならず分子マーカー等を用いて分子レベルで同定する。昆虫の場合、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応検査)がよく用いられるようである。PCRはご存じのとおり、新型コロナウイルスに感染しているかどうかを判断する際に大活躍している。

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【静学から動学へ】

私が小学生だった折、社会科の授業で「自宅の回りにどんな店があるか調べてください」という宿題をいただいたことがある。悠仁君達の論文というのは、これのトンボ版かと思われる。

でもこれだと、どこか面白みに欠けてしまう。悠仁君が宮邸付近で見つけたトンボたちが、赤坂御用地という生態系のなかをどのように移動しているかまで追跡調査でもしてくれていれば、もっと面白い論文に仕上がっていたと思うのである。

追跡調査するといっても、別に悠仁君がトンボと一緒に空を飛ぶ必要はない。

5年ほど前、米シアトルのワシントン大学の研究チームが、生きたミツバチの背にセンサーをとりつけ、気温や湿度などのデータ収集に利用できるシステムを開発していた。GPSは消費電力が多すぎるので、代わりにアンテナを設置し、位置情報もわかるようになっているという。

ミツバチでできるなら、トンボでも可能だと思う。まあ、紀子さんなら「悠仁は天才ですから空くらい飛べます」と仰るかもしれないけれど…。

 

【実験室、フィールド調査における偽造と誤断】

実験室での実験なら、誰かがその結果の追実験を行うことで、それが本当か確認できる。「STAP細胞を作った」としてNature誌に掲載された小保方晴子さんの論文も、そこに書かれているレシピに従って他の人がやっても「できない」ということで、ああいう結末になったわけである。

 

2014年1月、小保方晴子(理化学研究所)と笹井芳樹(理化学研究所)らが、チャールズ・バカンティ(ハーバード・メディカルスクール)や若山照彦(山梨大学)と共同で発見したとして、論文2本を学術雑誌ネイチャー(1月30日付)に発表した。

発表直後には、生物学の常識をくつがえす大発見とされ、小保方が若い女性研究者であることもあって、世間から大いに注目された。しかし、論文発表直後から様々な疑義や不正が指摘され、2014年7月2日に著者らはNature誌の2本の論文を撤回した。

その後も検証実験を続けていた理化学研究所は、同年12月19日に「STAP現象の確認に至らなかった」と報告し、実験打ち切りを発表。同25日に「研究論文に関する調査委員会」によって提出された調査報告書は、STAP細胞・STAP幹細胞・FI幹細胞とされるサンプルはすべてES細胞の混入によって説明できるとし、STAP論文は「ほぼ全て否定された」と結論づけられた。詳しいことはWikipediaなどをご覧いただきたい。

 

ところが、フィールド調査のほうは、そうはいかない。そのためどうしても偽造と誤断が入り込む余地がある。ここでは一時、世間を騒がせた旧石器発掘の捏造事件についてWikipediaで振り返っておこう。

旧石器捏造事件とは、日本の前期・中期旧石器時代の遺物(石器)や遺跡とされていたものが、それらの発掘調査に携わっていたアマチュア考古学研究家の藤村新一が、事前に埋設しておいた石器を自ら掘り出すことで発見したように見せていた自作自演の捏造であることが、2000年(平成12年)11月に発覚した事件である。

 

藤村は1970年代半ばから各地の遺跡で捏造による「旧石器発見」を続けていたが、石器を事前に埋めている姿を2000年(平成12年)11月5日付の「毎日新聞」朝刊にスクープされ、不正が発覚した。

 

これにより日本の旧石器時代研究に疑義が生じ、中学校・高等学校の歴史教科書はもとより大学入試にも影響が及んだ日本考古学界最大の不祥事となり、海外でも報じられた。火山灰層の年代のみに頼りがちであったことなど、旧石器研究の科学的手法による検証の未熟さが露呈された事件であった。



【悠仁君の論文】

さて話を悠仁君達の論文に戻そう。

悠仁君については、北九州市立文学館主催の「第12回子どもノンフィクション文学賞」で中学生の部で佳作に選ばれた『小笠原諸島を訪ねて』という作文が、大きな話題になった。

そこに剽窃があったと後になって判明したが、その際の彼の「御指摘に感謝」という高飛車なコメントや、賞を辞退もしなければ賞金を返そうともしない様子に、世間は厚顔無恥な奴だという印象をもってしまった。

それに輪をかけたように、さらに印象が悪いのはご両親の文仁君や紀子さんであろう。なにしろ着床前診断/PGT-A(Preimplantation genetic testing for aneuploidy)による男女産み分けを、政治利用して皇位を簒奪せんと企てるようなご夫妻である。

この件については、下の論稿を是非ともご覧いただきたい。

『ResearchGate』Hirokazu Nishimura ― Is political exploitation of preimplantation genetic testing for aneuploidy (PGT-A) ethical ? — The conspiracy of Fumihito (the heir presumptive to the Japanese throne) and his wife Kiko in the realm of the imperial house of Japan(英語版)

『エトセトラ・ジャパン』着床前診断(PGT-A)の政略的な利用は倫理としていかがなものか 理学博士が研究者向けSNSに論稿を執筆(邦訳)

 

秋篠宮邸改修工事では、すぐバレるような嘘を次から次へといっぱい聞かされた。特に文仁君は、生物学関係者と密な関係があり、大変な人脈を持っておられる。絶滅危惧種のトンボを何処かから調達してきて赤坂御用地に置いてもらうぐらいのことは、朝飯前であろう。

残念ながら、あの論文の信頼性に大きな疑問符が付くことは避けられそうにない。

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それでは第37話の締めくくりの1曲、『Ruusi Lyrics/Before the Dawn – Fabrication [Lyrics in Video]』をどうぞ!

(理学博士:西村泰一/画像など編集:エトセトラ)

【皇室、徒然なるままに】のバックナンバーはこちらから。
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【西村先生のご経歴】
1966年4月ー1972年3月  洛星中高等学校
1972年4月ー1976年3月  京都大学理学部
1976年4月ー1979年10月 京都大学大学院数理解析専攻
1979年11月ー1986年3月 京都大学附置数理解析研究所
1986年4月ー2019年3月  筑波大学(数学)

画像および参考:
『あさねぼう』旧石器捏造事件 2020-09-16 18:20:57

『YouTube』 Ruusi Lyrics ―  Before the Dawn – Fabrication [Lyrics in Video]

『J-Stage』赤坂御用地のトンボ相 ―多様な環境と人の手による維持管理―

『国立科博専報(50)』皇 居 の ト ン ボ 類 須田真一・清 拓哉

『MTL』ミツバチの背中にセンサーを搭載!?