疑惑まみれの国王に譲位を迫ったスペイン議会 国民の猛批判を受け止め新法を可決させ
近年の海外王室の王位継承事情に関して、先にこちらで「継ぐ気マンマンなのに法改正」「性犯罪で失脚」「隠し子の認知」などと、予想もしなかった出来事や事情の変化が起きていることをお伝えてみた。王子・王女の段階で決断しておかなければならない大事なことは、やはり先送りにしてはならないのだろう。
そして時には、国王になってから深刻な騒動を巻き起こしてしまうお方も。国民に寄り添うより私利私欲、女と贅沢が大好きで、むやみに動物を殺生。そんな人物が国王になったところで国民の支持を得られず失脚するということを、スペイン前国王の事例から学んでみたい。
■スペイン王室が国王の資産を公表
スペイン王室事務局は昨年の春、2014年に国王に即位したフェリペ6世(54歳)の個人資産について、「約260万ユーロ(当時の為替相場では約3億5千万円。現在は3億6,700万円)ある。有価証券や銀行の預金が230万ユーロ、残りは芸術作品、骨董品、宝飾品などだ」と公表した。
王室関連の会計に透明性を持たせ、公金使途の詳細を正しく報告し、説明責任を果たすよう、野党が議会で強く求めたことによるものだった。
即位と同時に国民の信頼を回復させることが急務となったフェリペ6世。きっかけは、父親で1975年から国王だったフアン・カルロス1世(85歳)がいくつもの不祥事を重ねたこと。王室廃止論すら出かねない状況に追い込まれたのだ。
■スペイン前国王の不祥事【裏金疑惑】
サウジアラビアのメッカとメディナを最高速度300kmで結ぶ「ハラマイン高速鉄道」は2017年に完成したが、67億ユーロ(約8400億円)で受注に成功したのは、予想されたフランスの企業ではなくスペインの企業だった。
さらに2012年のその契約に関し、サウジ国王のアブドゥッラー・ビン・アブドゥルアズィーズ(当時)の代理人から、フアン・カルロス1世がキックバックを受け取っていた疑いが浮上した。スイスの銀行にパナマで設立された財団の隠し口座があり、そこに日本円にして118億円ほどの怪しい入金があり、愛人の口座に移すなどマネーロンダリングも疑われたという。
■スペイン前国王の不祥事【動物の殺生】
2012年4月、非公式で訪れていたボツワナで、腰の骨を折る大怪我を負ったことが報じられたフアン・カルロス1世。「世界自然保護基金WWFスペイン」の名誉総裁でありながら、それが娯楽目的でのゾウ狩り旅行だったことから動物保護活動家ら数万人が猛烈に抗議し、7月にはその名誉総裁解任が発表された。
いくらボツワナではゾウのトロフィーハンティングが合法だとしても、人々に愛されている動物をむやみに殺生したとあって、国民の支持率はいっきに急落。マリアーノ・ラホイ・ブレイ首相(当時)が譲位のための憲法改正案を国会に提出したほか、野党および国民はSNSで国民投票の実施を強く呼びかけた。大規模なデモが各地で起き、議会では賛成多数でついに「国王の退位に関する法律」が可決されたのだ。
■スペイン前国王の不祥事【女遊び】
国民に寄り添う気持ちより、私利私欲が優先で贅沢好きという性格に加え、絶倫の噂があったフアン・カルロス1世。抱いた女性の数は2,000人を超えると暴露されたこともある。
問題は、隠し子が発覚すれば大きな脅威になること。海外に「第二夫人」を自覚する女性などがいようものなら、国を挙げてトラブルの後始末に追われるだろう。その節操のなさに、男性ホルモン抑制の薬を投与されたという話すらあるようだ。
■新国王となった息子は国民の怒りを鎮めるため…
フェリペ6世は2020年3月、父であるフアン・カルロス1世に支払われてきた約2,300万円の年間手当てを打ち切り、相続財産も放棄すると発表。そして同年8月、フアン・カルロス1世は82歳でアラブ首長国連邦のアブダビに逃亡した。
国民も一旦冷静さを取り戻したが、なんとスペインの検事当局はそこですべての起訴を取り下げてしまった。時効や状況証拠の不足が理由に挙げられ、刑事罰を期待していた国民の新たな怒りを誘ってしまったのだ。
王室事務局はフェリペ6世の資産公表にあたり、このように添えている。
「新国王は、王室が国民の尊敬と信頼に値するよう努め、国民の模範となる言動を心掛け、公金使途の透明性や公正さを重んじ、風通しのよい王室を目指します。」
■日本に紀律を乱す皇族を罰する法律は?
現在の日本にある皇室典範は、1947年(昭和22年)に「法律」として公布されたもので全5章37か条。一方、1889年(明治22年)に大日本帝国憲法と同時に制定された旧・皇室典範は、全12章62か条もある。
旧・典範は第52条として、「皇族の品位」についてこう定めている。
「皇族其ノ品位ヲ辱ムルノ所行アリ又ハ皇室ニ對シ忠順ヲ缺クトキハ勅旨ヲ以テ之ヲ懲 戒シ其ノ重キ者 ハ皇族特權ノ一部又ハ全部ヲ停止シ若ハ剝奪スヘシ」
これを現代語で表現すると…
「皇族として品位を辱める、あるいは皇室に対し忠順を欠くような言動があったときは、勅旨(天皇の意思を伝える文書)によりその者を懲戒する。特に重い懲戒においては、皇族特権の一部あるいは全部を停止させるか剥奪するように」
現在の典範からそうした条文が消えたのは、「紀律を乱す皇族など存在しないだろう」という性善説からか。そして、それを決断できるのは天皇のみと定めたことも問題だったのだろう。
しかし、皇族にある態度の節度や緊張感を求めることができる、そういう法律は必要だろう。モラルを失い、好き放題やらかす不心得な皇族に対応できないというのは、あまりにも片手落ちな気がする。
もはや「菊のカーテンが…」などと言っている場合ではない。国会の議決があれば皇室典範の改正は可能であり、「天皇の勅旨により」という部分のみ改め、今こそ旧・典範第52条と同様の主旨の条文を復活させる検討に入ってほしいものだ。
■まとめ
奇しくも「皇族がモルモット、カピバラ、アロワナを食べるなんて」「ニューヨークの小室夫妻にこっそりと税金を流しているのでは」「秋篠宮邸の改築に総額44億円とは何事だ」といった批判や苦情が日本でも噴出している。国民が物価高や税金地獄にあえいでいる状況も、2014年当時のスペインとそっくりだ。
国民からの支持率急落は君主制維持の意識を変え、伝統ある王室の廃止論にも直結すると危機感を募らせたからこそ、スペイン議会は真剣に動いた。それは王室をぶち壊すためではなく、安定化と正常化を図るために必要なことだったという。
(朝比奈ゆかり/エトセトラ)
参考および画像:
・『THE LOCAL es』Spain’s king unveils personal assets of €2.6 million
・『エトセトラ・ジャパン』海外王族の困った事情あれこれ『継ぐ気マンマンも法改正』『性犯罪で失脚』『隠し子の認知』 日本は大丈夫?
・『Nagaland Post』 Spain’s King axed as WWF president following row over elephant hunting
・『エトセトラ・ジャパン』皇室もスペインをみならい資産や会計を公開してみては? 国民の信頼を取り戻すことに必死なスペイン王室
・『エトセトラ・ジャパン』合法のゾウ狩りでもWWF名誉総裁を解任されたスペイン国王 日本でも関係当局に苦情殺到なのでは…?
・『Wikisource』皇室典範 (明治二十二年二月十一日)