トンボ論文写真No.66「本当に7月2日の撮影ですか? 穂ばらみ期に見えますが」と農業従事者さまより
秋篠宮家の長男・悠仁さまが昨年発表された論文『赤坂御用地のトンボ相 ―多様な環境と人の手による維持管理―』のなかで、最近こちらで話題として頻繁に取り上げていたのが写真No.66である。このたびは、長野県で農業に携わっていらっしゃるMKさんという方から、その写真の撮影日について興味深い情報が寄せられた。
まずは、今月18日の『トンボ論文写真No.66アキアカネのヤゴは全くの別物 腹の先端の穴は内臓を取り出した跡か』という記事から。神奈川県在住のHさんは、このように疑問を投げかけておられた。
「写真No.66では、右半分に水面のような茶色の領域があります。論文にある杏水田を見ると、稲の周辺には何も植えられていないことがわかります。さらに、66番が撮影されたのは2022年7月2日と。この頃の稲は “最高分げつ期” にあたり、稲の葉が写っていないことが不自然です。」
(略)
一株から30~35本くらいの数で茎が広がっていくイネ。その緑が水田を覆い尽くす「最高分げつ期」は、6月下旬~7月上旬だそうだ。
以下、MKさんからのこのたびのメールを、ほぼ原文のままご紹介させていただきたいと思う。
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Hさんは「その時期、稲は最高分げつ期にもかかわらず、茎が広がってない」とおっしゃっています。
私も農業をしており、稲については日々見ている経験から、写真について色々と気づくことがありました。
まず、新潟県岩船郡関川村の『岩船まいすたあ塾テキスト/水稲栽培の基礎知識』を参考に説明しますと、イネの茎は、筒状の葉鞘の中(最上部の葉の付け根)から次の葉が上へ伸び出す(展開する)ことで、次第に高く成長していきます。
つまりイネの葉は、茎の途中のところどころから斜め上に伸びた形になるのです。
そして、展開した葉が一定の枚数に達すると、筒状の葉鞘の先からは葉が出てこなくなります。なぜなら、そこから稲穂を出さなければならないからです。これを「止葉」と呼びます。最高分げつ期を過ぎ、止葉(発育の最終段階、茎のいちばん上に形成される若い葉)が見られるようになってしばらくしたら、葉鞘の上部が膨らんで細長い紡錘形になってきます。
止葉は幼穂形成期の終了を意味し、そこから出穂が始まるまでを「穂ばらみ期」と呼びます。穂ばらみ期とは、穂が出る20日前ぐらいから、茎の中で穂の赤ちゃん(幼穂)がだんだん大きくなる期間のことです。
農家はそこで、稲穂を成長させる肥料(穂肥=ほごえ)を施さなければなりません。その時期は大変重要な判断要素を含んでいます。米の収穫量や、刈り取り時期にイネが倒れるのを避けることができるかどうかが決定するからです(最近は元肥として与えれば、自動的にこの時期に効いてくる肥料も現れたので、その判断が必要ない農家も増えてきているのですが…)。
また根元から扇のように広がっていた最高分げつ期のイネの茎は、穂ばらみ期から出穂期にかけては茎がまっすぐ上に向かって立つようになります。これは開花の後、もみの中に種子が大きくなって穂が傾くようになるまで続きます。
写真No.66を拡大して見てみましょう。
トンボの目線の先にある白い三角形の部分には、葉舌、そして葉耳と呼ばれる羽毛のようなものが付いています。さらに葉耳の下の方を見ると、葉鞘が割れて薄緑色の「若いもみ」が見えています。紛らわしい細い葉がその向こうにありますが、この口から出ているものではありません。
この写真No.66が撮影されたのは、出穂の12日から6日ほど前の穂ばらみ期だと思います。ただ、気になることがあるとすれば、より下の方にあるはずの稲の葉が画像に写っていないことです。何か田んぼの隅にポツンと一株だけ植えてあるようにも見えます。
続いて見て頂きたいのが、ANNnewsCHの『悠仁さまが16歳に 筑波大附属高校で初の夏休み バドミントン部の練習や蓼科山登山も(2022年9月6日)』というYouTube動画のスクリーンショットです。ここはトンボ論文にある写真No.13の表町水田だろうと思います。
この状態は、穂の出始めの頃(走り穂といいます)で、全ての穂が出そろう日の3~5日ほど前のように見えます。録画されたのは8月6日とのことですから、出穂(茎のうちの半数以上が穂を出すとき)は8月10日ころだと思われます。。
そして穂ばらみ期は出穂の12日ほど前からになりますから、8月6日の7~9日前。したがって7月29日~30日となり、天候による成長の進み遅れを誤差を考慮したとしても、7月20日より前になることはあり得ない。
一方、杏水田とされる田んぼのイネが穂ばらみ期と見られる写真No.66画像は、穂ばらみ期であろうに7月2日の撮影とのことです。もしも杏水田と表町水田が同じ時期に田植えをしたのであれば、矛盾が生じます。
これらのことは、イネがまっすぐに伸びていて7月2日の撮影という説明に違和感がある、という神奈川県のHさんの考察の裏付けとなると思います。穂ばらみ期は私の地方では7月下旬頃ですが、南関東から東海にかけては通常7月下旬から8月初旬頃ですから、赤坂御用地で7月2日に穂ばらみ期を迎えるなど、まず起こり得ないでしょう。
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以上が、写真No.66の撮影日に関するMKさんの考察である。
論文の写真No.66だと葉の先の様子がまったく確認できないが、白い葉耳と葉舌とその下の葉鞘の割れは大きなヒントになった。そして、悠仁さまが16歳になられた際に流された映像で見えた「走り穂」と呼ばれる稲穂の状態からも、赤坂御用地の7月の田んぼの様子は想像できるという。これはもう、イネと長く向き合ってこられた農業従事者さんならではである。
筆頭著者の悠仁さまも共著者の飯島 健氏も、田んぼに関しては相当お詳しいはずだ。なぜ、撮影日と稲の様子の不一致を怪しまれてしまうような事態が起きたのだろうか。
(朝比奈ゆかり/エトセトラ)
画像および参考:
・『教育出版・昆虫図鑑』アキアカネ【トンボ科】
・『新潟県岩船郡関川村』岩船まいすたあ塾テキスト ― 水稲栽培の基礎知識
・『国際農研』穂ばらみ期の地上分光計測データから収穫前にコメの収量が予測できる
・『YouTube』ANNnewsCH ― 悠仁さまが16歳に 筑波大附属高校で初の夏休み バドミントン部の練習や蓼科山登山も(2022年9月6日)
・『エトセトラ・ジャパン』トンボ論文写真No.66アキアカネのヤゴは全くの別物 腹の先端の穴は内臓を取り出した跡か