【皇室、徒然なるままに】第32話 筑波大学と福田信之と統一教会が創る魔の三角形《その2》なぜバレたのか、筑波大学生「大量選挙違反事件」 西村 泰一
1978年、開学間もない筑波大学で、茨城県県会議員選挙のために一人あたりわずか数千円の報酬で多くの学生が組織的に買収され、大量の書類送検者を出した。しかし不思議なことに、筑波大学はこれらの学生に対し、何ら処分を下さなかった。このあたりについて、今一度考察してみたい。
【筑波大生大量選挙違反事件を再訪】
1978年茨城県県会議員選挙で、多くの筑波大生が組織的に買収された事件。
その頃つくば市はまだ存在せず、筑波大学の所在地は、当時は「茨城県新治郡桜村」であった。その桜村の村長の息子・藤沢順一氏が県議に立候補したが、運動員を使って筑波大生の買収に大々的に乗り出した。
応じた学生は運動員に引率されながら不在者投票を行い、謝礼として約3,000円を受け取った。また、買収斡旋にも協力してくれた学生には一人につき500円ほどの謝礼が支払われたという。
買収の誘いを受けた学生は200名を超えたとも言われ、結局は体育専門学群を中心に140名前後の学生が書類送検されている。これはあくまで噂であるが、「大学の幹部職員もこの買収事件に関与していた」という話も出回っていた。
【土地買収をスムーズに行うために】
上記の事件について私説を述べてみたい。あくまで私説であるので、年寄の世迷言と思って読んでいただければ、幸いである。まず次の点に注目する。
1. 県議会議員候補の藤沢順一氏(桜村村長の息子)と買収された筑波大学生を結ぶものは何か?
2. 体育の学生が突出して多い。
3. 筑波大学は口頭での簡単な注意ぐらいに留めて、なんら処分らしい処分を関与した学生に対して下していない。
4. 警察とは別に筑波大学もこの件の調査を独自におこなったのであるが、その結果を全く公開していない。
3代目の学長だった福田信之氏は「筑波大学が成立するためには、筑波大学法案が国会で承認されることが必要であった」旨、述べておられたが、筑波大学が滞りなく成立するためには、桜村の土地の買収が滞りなく行われる必要があった。
そして「筑波大学反対」というのは、当時の左翼系勢力のなかで声高に叫ばれたスローガンであった。筑波大学が新東京国際空港の話の二の舞いにならないようにするためには、桜村の村長を始めとする顔役達の、一糸乱れぬ結束が必要であった。
ご存知のように、1966年7月「新東京国際空港の位置および規模について」が閣議決定すると、いわゆる三里塚闘争が始まった。これは、新東京国際空港(成田国際空)予定地近辺の地元民の中に、当時の日本共産党や新左翼の連中が入り込み、激しい反対闘争をしたことを指している。
【村長の息子は県議を経てつくば市長に】
この意味で、福田や田中派は桜村の顔役達に恩義を感じているのである。政治の世界とは常にギブ・アンド・テイク。すると今度は、桜村の村長が「うちの息子をなんとか県会議員にしたいのだが」と田中角栄もしくは田中派の重鎮に相談する。そこで白羽の矢が立ったのが、福田信之であった。
なにしろ桜村なんて、典型的な過疎の村だったものが、筑波大学ができて大量の学生が新住民となったのである。「大量の学生たちを、藤澤さんに投票させればいいんじゃないか」というわけである。
これは、どう考えても「初めて選挙に立候補します」という人の発想ではない。頭の回転の速さと鋭い視点で鳴らした、いかにも田中角栄らしい発想である。福田も、田中派や桜村には恩義を感じているから、断ることなんか考えられないだろう。
さて、この事件でスポットライトを浴びた藤澤順一氏は現在83歳でいらっしゃる。県議を五期務め、その後つくば市長を2期務め、2015年には旭日小綬章を受章なさったそうだ。
【白羽の矢が立ったのは体育専門学群の学生たち】
ただし、「選挙違反をやりましょう」という話であるから、ことは慎重に運ぶ必要がある。福田は周りを見渡し、体育専門学群のそれなりの地位についている教官に白羽の矢を立て、すべてを託した。これが2で述べた、買収された学生の中に体育の学生が突出して多い理由である。
そして大学独自の調査が行われても、その結果に副学長だった福田信之という名前が出てくるのであるから、そんなものを公開なんて出来るはずもない。またこの買収事件で関与した教官の名前に対しては、箝口令を敷くかわりに、学生には処分をしないという見返りを提供したのではないかと思われる。
6年ほど後となる1984年1月の筑波学生新聞にも、桜村の村長選挙において、規模は小さいが、再び筑波大学の学生による選挙違反があったことが伝えられていた。スポーツ系クラブで「OBが後輩にバイトを依頼」という形で起きたという。
【選挙違反はなぜ発覚したのか】
この筑波大生大量買収事件、どうして発覚したのであろうか?
実は、これらの買収された筑波大生は「不在者投票」で投票していた。投票を依頼する側も、お金だけ受け取り実際には投票しない者が現れるのは困るとして、確実性を期して、わざわざ彼らを不在者投票所まで運んでいたのである。マイクロバスや自動車を用意し、多い日にはその数は40人を超えたという。
だが、学生が県議選に熱心になるなんて、あまりしっくりこない。ましてや筑波大学には全国から学生が集まり、数年間だけそこに暮らす。そんな学生たちが、なぜ茨城県の県議会に関心を寄せ、ほぼ同じ時刻にマイクロバスで大量に運ばれてきて不在者投票など行うのか。
東京あたりと違って、その近辺の大学は筑波大学だけなので、大学生っぽい若者はほぼ筑波大学生ということになり、このあたりも決め手になったのだろう。あまりの不自然な光景に、その場にいた誰もが怪しみ、事件の発覚に繋がったという。
慎重にことを運んだつもりであろうが、なんとも御粗末な話である。その時、選挙管理委員会の人たちは思ったであろう。「
先にも述べたが、筑波大学生を大量に買収して投票させるというアイデアは、田中角栄発だと思われる。だが、
田中角栄も後ほど事の顛末をお聞きになった折には、「福田先生は勇ましいが、
【通説は出鱈目】
この大量選挙違反事件であるが、通説ではどういう筋書きになるかというと、「この事件の企画立案をしたのは、藤澤氏の選挙の裏参謀二人」ということになっている。
そして、「この裏参謀二人が常日頃付き合いのある食堂、スナック、自転車店、それに家庭教師先などに声をかけて、学生を選挙違反に駆り立てた」ということになっている。
しかしこの筋書きだと辻褄が合わないところがたくさん出てくるのである。
まず裏参謀であるが、これは選挙のプロフェッショナルであろう。そんな人物が、学生を大量にマイクロバスに乗せて不在者投票所まで運ぶという、選挙管理をしている人達に怪しまれること請け合いの企画をするとは、とても考えられない。これはどう考えても選挙にド素人の発想である。
次に、常日頃付き合いがあった食堂とか自転車店の人達は、まず普通の人達だと思われるので、警察沙汰になるかもしれない話の片棒を担ごうとするとは思えない。裏参謀の二人は、これを食堂とかの人達に頼む折にお金を渡したのであろうか? 色々と疑問はつきない。
さらに、こういう形で学生を集めたとすれば、請け負った学生が体育に著しく偏る理由はまったくない。以上より、この通説は副学長の福田、あるいは福田の依頼でこの大量選挙違反事件の舵取りをした体育の教員を隠すための、苦し紛れの言い逃れとしか言いようがない。
【木原事件を見て思うこと】
木原誠二前官房副長官の奥さまの元夫・安田種雄さんの怪死事件について、再び捜査されるという文春のニュースを見ていて、国家権力の中枢にある方というのは、警察の捜査に簡単に横槍をいれることができるんだなと痛感した。
それでこの「筑波大学生大量買収事件」を振り返って見てみると、この頃に国家権力の中枢にいたのは田中角栄である。そして第31話に綴ったように、福田信之副学長と田中角栄は「肝胆相照らす間柄」である。警察の捜査が筑波大学の教官にまで及ぶことがないよう取り計らってもらったのではないかと思われる。
殺人事件と疑われるような案件でも、警察の捜査に圧力をかけられるのであるから、たかが公職選挙法違反の話で捜査を捻じ曲げるぐらい朝飯前だったと思われる。
【筑波大学に望むこと】
ご存知のように、官公庁の情報はなるだけ開示していくようになっている。特にこの事件のあった頃は、国立大学である筑波大学は文科省に連なる組織であり、官庁であった。筑波大学はこの件を独自に調査されているのであるから、その調査報告書を公開していただきたい。
当時は、公開すれば、教官が先導していたことが露見して筑波大学の存続に関わるということで門外不出とされたのであろうが、すでに事件から半世紀近くたっている。特に今年は創立50周年ということで、公開するのにちょうどいい頃合いではないだろうか?
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それでは第32話の締めくくりの1曲、『【Jill】進撃の巨人「紅蓮の弓矢」バイオリンで弾いてみた』をどうぞ!
(理学博士:西村泰一/画像など編集:エトセトラ)
【皇室、徒然なるままに】のバックナンバーはこちらから。
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【西村先生のご経歴】
1966年4月ー1972年3月 洛星中高等学校
1972年4月ー1976年3月 京都大学理学部
1976年4月ー1979年10月 京都大学大学院数理解析専攻
1979年11月ー1986年3月 京都大学附置数理解析研究所
1986年4月ー2019年3月 筑波大学(数学)
画像および参考:
・『NHK』みんなの選挙 選挙の期日前投票
・『YouTube』 JillviolinChannel ― 【Jill】進撃の巨人「紅蓮の弓矢」バイオリンで弾いてみた
・『エトセトラ・ジャパン』第16話 筑波大学の由緒(its distinguished history)を訪ねて:後篇
・『筑波大学』筑波學生新聞 第20号1984年1月10日
・『サンスポ』不祥事が目立つラグビー界 大人がいつまでも子供の幼稚さを持っていいわけがない