クニ子さんに会えなくてもこの1冊さえあれば…? 椎葉村役場には焼畑論文のヒントが満載の「手順書」が存在

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この手順書のP34~35で、椎葉クニ子さんは長いインタビューに応じている(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)
村役場に存在する「手順書」のP34~35で、椎葉クニ子さんは長いインタビューに応じている(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)



こちらで昨晩アップした、『揺れる椎葉村の役場に電話した女性からご報告が 「本当に行ったのか、広報誌の写真はホンモノか」』というタイトルの記事。写真の背景は「椎葉民俗芸能博物館」のなかの、神楽を舞うための神庭(こうにわ)で間違いはないようだ。

 

◆なぜ教育委員会が主導権を…?

その記事のなかで一か所、文字のカラーをあえて紫色に変えておいた部分がある。情報を下さった方が、広報誌に載ったという写真は誰が撮影したのか尋ねたところ、役場の職員はこのように答えたそうだ。

村の教育委員会さんから「この写真を使ってください」と送られてきました。

「写真は教育委員会からだ」と言うものの、総務課と教育委員会は村役場の同じフロアの目と鼻の先にある。

2008年ニリニューアルされ、気の香りが漂う大変美しい庁舎に(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)
2012年春にリニューアルされ、木の香りが漂う大変美しい庁舎に(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)

 

フロアマップの2階部分を拡大すると…。

村役場の庁舎で、同じフロアに教育委員会も(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)
村役場の庁舎で、同じフロアに教育委員会も(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)

確かに椎葉民俗芸能博物館は教育委員会の管理下にある。とはいえ広報誌の担当は総務課だ。4月上旬のご訪問であろうに、2ヶ月以上経ってから写真を渡され「広報に」と依頼されるなど、やはり何かがおかしい。号外なら余計に「間」を置いてはならないはずだ。

情報提供者さまも感じておられたようだが、これはどうしても「悠仁さまが焼畑に関する論文をどこかに提出するため、椎葉村を訪問したという証拠写真が必要になったのでは?」と想像してしまう。

そうなると宮内庁(内閣府)、文部科学省、宮崎県、県教育委員会も関わっているかもしれないとあれこれと考えていた中、電話の件とはまったく別の2名の方から大変興味深い情報がメールで寄せられた。

なんと椎葉村の役場には、かつて椎葉クニ子さんが詳しく語っておられた内容を含む、焼畑農法の情報が満載の「手順書」が存在するという。さらに別の方からは、専門家が超高齢化し、次々と他界されるなかでも「素晴らしい論文を書かれる研究者さんは、いまだにいらっしゃいます」というお話も…。

 

◆夢のような「手順書」が

椎葉村役場の農林振興課に存在するという、2018年3月発行の大変立派な『椎葉の焼畑 手順書 ~森を守り、未来へつなぐ循環型農法「焼畑」の全て~』。最近お亡くなりになった椎葉クニ子さんは、そのなかの「焼畑・先人の記憶集」というコーナーのトップに登場し、貴重な体験をたっぷりと語っておられたようだ。

椎葉クニ子さんは長いインタビューで貴重な体験談を語っておられた(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)
椎葉クニ子さんは長いインタビューで貴重な体験談を語っておられた(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)

詳しい内容は、ぜひとも手順書のこちらのページをご覧いただければと思う。

そのコーナーでは他にも先人9名がインタビューに応じており、焼畑農法におけるさまざまな知恵と工夫、課題、今後への期待などがぎっしりと詰まっている。是非とも上のリンクから手順書の34~35ページ(PDFとしては18ページ)に飛び、ご確認いただきたい。

 

◆手順書作成に携わった大学教授はユネスコエコパーク登録にも貢献

その手順書の作成に大きくかかわった研究者のひとりに、宮崎大学農学部・森林緑地環境科学科で造林学や森林生態学を教えてこられたという、伊藤哲教授(57)がいらっしゃる。

大変多くの方が手順書作成に貢献されたが、なかでも伊藤哲教授は県文化賞を授与されている(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)
大変多くの方が手順書作成に貢献されたが、なかでも伊藤哲教授は県文化賞を授与されている(画像は『宮崎県椎葉村』PDFのスクリーンショット)

 

宮崎県は2021年の秋、その伊藤教授に「宮崎県文化賞」の学術部門を授与した。これまでに「綾ユネスコエコパーク/綾の照葉樹林プロジェクト」に学識経験者として関わり、学術部会長として関わった2017年には「祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク」の登録が実現。地域の生態系保全に大きく貢献してこられたそうだ。

焼畑文化に精通しておられるという伊藤教授は一番右(画像は『宮崎大学』のスクリーンショット)
焼畑文化にも精通しておられる伊藤教授は一番右(画像は『宮崎大学』のスクリーンショット)

 

なお、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)とは、生物多様性の保護、自然及び天然資源の持続可能な利用と保護に関する科学的研究を行う政府間共同事業の一環。1976年に開始された。

 

◆ユネスコ、宮崎県といえばジオパーク

ユネスコ、宮崎県といえば、2008年10月に設立された霧島ジオパーク構想および推進計画について触れないわけにはいかないだろう。

鹿児島県と宮崎県は今、霧島ジオパーク推進事業に余念がない模様だ(画像は『Webで学ぼう霧島山』のスクリーンショット)
鹿児島県と宮崎県は今、霧島ジオパーク推進事業に余念がない(画像は『Webで学ぼう霧島山』のスクリーンショット)

 

珍しい地質遺産を誇る霧島山を中心に、美しい自然を保護し、研究・教育や観光業に活かそうというジオパーク構想。ユネスコの「ジオパーク」プログラムに認定されることで、ジオツーリズムとしての環境整備がぐんと向上する。

鹿児島県と宮崎県は今、霧島ジオパーク推進事業に余念がない模様だ(画像は『Webで学ぼう霧島山』のスクリーンショット)
霧島ジオパーク対象エリアは、当初の計画の3倍にも拡大されたそうだ(画像は『NHK宮崎』のスクリーンショット)

 

昨年10月には、対象エリアが当初打ち出された計画の3倍にも拡大されたことが発表され、鹿児島・宮崎両県の関係者らを歓喜させたもようだ。

 

◆まとめ

上述の『椎葉の焼畑 手順書 ~森を守り、未来へつなぐ循環型農法「焼畑」の全て~』は全55ページからなり、非常に細かな描写、そして専門知識の詳細にわたる説明が見事である。言い換えれば、焼畑に関する論文がこれ1冊だけで完成するかと思うほど、ヒントが満載だ。

考えたくはないことだが、もしも例の『小笠原諸島を訪ねて』の作文のように剽窃行為がこっそりと行われてしまうとしたら、正直なところこの手順書を超える「題材」はないだろうとさえ思う。

(朝比奈ゆかり/エトセトラ)

参考および画像:
『宮崎大学』教育・学術 ― 伊藤哲教授が宮崎県文化賞(学術部門)を受賞

『宮崎県椎葉村』椎葉村役場 農林振興課 ― 椎葉の焼畑 手順書

『Webで学ぼう霧島山』霧島ジオパーク

『NHK宮崎』宮崎・鹿児島両県 「霧島ジオパーク」のエリアが3倍余に拡大