素朴な疑問:川嶋舟氏は東京農大の良き広告塔なのか 大学の実情に詳しい人に話を伺う

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東京農業大学の顔でもあるのだろう川嶋舟氏(画像は『東京農業大学』HP教員紹介のスクリーンショット)
今や、東京農業大学の「顔」でもあるのだろう川嶋舟氏(画像は『東京農業大学』HP教員紹介のスクリーンショット)

 

紀子さま実弟・川嶋舟氏のWikipediaを見ていて、全国さまざまな分野の多くの事業に役員、委員として関わるなど非常に肩書きが多いことに驚いた。東京農業大学の准教授という本業の方は一体どうなってるのだろう、大丈夫なのかと心配になるほどだ。

それでも「有名なら大学にとっては良い宣伝になるのだろう」などと考えていたところ、大学の広告塔とは実はそんな単純なものではないという話も…。実情をよく知る方から興味深いお話を伺うことができたので、今回はそちらをご紹介してみたい。



 

■肩書が多い川嶋舟氏

2005年10月に東京農業大学農学部バイオセラピー学科の講師となり、2018年4月からは同デザイン農学科の准教授でいらっしゃる舟氏。現在は「生活デザイン農学」が専門で、馬とのふれあいによる「ホースセラピー」に力を入れていらっしゃるようだ。しかしWikipediaには【名誉職・役員】として、これだけの“肩書き”が示されていた。

『(一般社団法人)日本食文化会議』- 監事
『(一般社団法人)おらがまち』- 「お酒と福祉を醸す日々」プロジェクト起案
『(特定非営利法人)ちいさなアリの手』 – 役員(現在は事情により辞任済)
『日本ライフサポーター協会』 – 理事
『(公益社団法人)日本馬術連盟』 -獣医委員
『日本ウェルビーイングホースセラピー&ホースコーチング協会』 – ボードメンバー
『日本ウマ科学会』-理事
『(公益財団法人)社会貢献支援財団』 -理事
『(認定NPO法人)スローレーベル』 – 監事
『(一般社団法人)ピポトピア』-監事
『社会福祉法人年輪』-評議員
『(有限会社)三輪車』-アドバイザリーボード・メンバー
『沖縄ウェルビーイング推進協議会』 – ボードメンバー
『Giveness International Giveness&Co.株式会社』-ボードメンバー

ちなみにこの「社会貢献支援財団」だけは、弊ブログでも今年の9月に『川嶋舟氏が安倍昭恵夫人の25億円慈善財団の理事に コロナ禍でもすごい予算書』という記事で触れたことがあった。

 

■大学の内情に詳しい人から見ると…

これだけ多忙なのに、さらに准教授としてのお仕事や研究にも熱心だとしたら、舟氏は相当なマルチタスクの能力をお持ちなのだろう。そんなことを考えていた矢先、Twitterのあるユーザーさんが「話をよく聞いてみて」と山田さん(仮名)という方を紹介してくださった。

 

―― 山田さん、本日はよろしくお願いいたします。まず、ご自身について簡単にお話ししていただけますか?

山田さん: 私は関西地方の国立大学で秘書の仕事をしていました。1人の先生が研究者としてどういう状況にあるのか、あくまでも国公立になりますが内情は大体わかります。要はもらっている科研費を見るんです。

 

―― すみません、カケンヒとは…?

山田さん: 日本の研究者たちのために、文部科学省とその外郭団体が行っている「科学研究費助成事業」のことです。あらゆる分野の斬新な学術研究に対し、助成金を分配するんです。

東大とか京大とかトップの大学になると、教授、准教授、講師、助教といった常勤の先生たちはほぼ毎年その科研費を獲得します。優れた研究を行い、成果が論文として紹介され、また科研費を獲得して次の研究へ…の繰り返しです。

 

―― わかりました。ベテランでも若い方でも同等にもらえるんですか?

山田さん: 画像とともに説明しますね。こういう風に細分化されていて、基盤研究がAか Sクラスの先生になると、個人で秘書を雇っていることが殆どです。1人でいくつも獲得する人もいますよ。

科研費に関する一覧表。対象やレベルが細分化されているようだ(画像は『科学研究費助成事情』のスクリーンショット)
科研費に関する一覧表。対象やレベルが細分化されているようだ(画像は『科学研究費助成事業』のスクリーンショット)

また、優れた研究者として頭角を現していくわけですから、若手研究も注目が集まります。博士号を取得して8年未満を「若手」としていて、500万円以下ですが科研費を獲得し、2~5年かけて研究を行うんです。

 

―― つまり、科研費の配分額や研究の内容で、その先生の評価が見えてくるわけですか?

山田さん: そうです。研究者としての国際的な評価は、学術誌にどれだけたくさんの論文が掲載されるか、どんな賞を獲得しているかなんですが、日本国内ではやはり科研費が大きなバロメーターになります。

申請しても落ちることがあるんです。近年の採択率は3割程度だそうですよ。毎年応募して落ち続ける先生もいれば、優秀で複数の研究課題で獲得できる先生もいて、そのあたりは、『KAKEN』というサイトでデータベースを検索すればわかります。

 

―― 獣医学を含めた農学部のデータベースで、山田さんが特に注目した先生はいらっしゃいますか?

山田さん: こちらも画像で説明しますね。例えば、東大大学院の農学生命科学研究科で准教授をしていらっしゃる今川和彦さんという先生は、かなりご優秀ですよ。

数年間かかるこうした研究には1億円超の●が付くことも(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)
数年間かかるこうした研究には1億円超の科研費が付くことも(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)

筆頭研究者となって、2006年から2010年までの計画で打ち出した『妊娠の制御と成立機構のリモデリング』という研究課題には、なんと1億1千万円超の研究費が支払われています。

大学の先生って、そこからお給料を出して秘書を雇うんですが、こういうレベルの高い先生には、やはり優秀な秘書が付くんです。

 

―― 若手研究では、どのような先生に注目しましたか?

山田さん: 例えば、佐々木恵亮さんという先生のデータに目が留まりました。東京農大生命科学部の研究員を経て、現在は国立群馬大学大学院の医学系研究科附属生物資源センターというところで助教をされていらっしゃるようです。

若手の個人でも優れた研究は高く評価される(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)
若手の個人でも優れた研究は高く評価される(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)

佐々木先生は2年間の独自の研究で416万円もの研究費を獲得しておられます。こういう研究者さんは意欲が違うんでしょうね。

 

―― 川嶋舟氏についても、若手の時期を含め調べてくださったのですね。

山田さん: はい。東大大学院の農学部で獣医学の博士号を取得して以降の17年間についてです。ご自身が主任研究員となって科研費を獲得した様子は見当たらなかったんですが、別の方が科研費を申請して獲得し、その研究に参加されたものが2件見つかりました。

川嶋氏は共同研究で課題2件に参加させていただいたのみ(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)
共同研究課題2件に参加しておられた川嶋舟氏(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)

東大の大学院卒は科研費を獲得する常連で、一番貰っていると思うんですが、なぜ単独で科研費をとった研究が1つもないのか、そこはちょっと不思議でした。



 

―― 研究者の出世について、正しい順番を教えていただけますか?

山田さん: 博士課程後期を終えて研究員に。その後、助教、講師、准教授、教授の順です。助教より上が大学の正規職員となります。研究員は大学ではなく教授のラボのお金で雇われるため、研究が終了したら収入面では不安定ですね。

川嶋氏の場合、2005年にいきなり東京農大の講師に就任され、2014年には准教授に昇格です、研究員や助教をすっ飛ばして…。これは異例のスピード出世というしかないですね。

 

―― 皆さん、羨ましく思っておられるのかも…。ところで、その科研費はお給料とも違うんですね?

山田さん: 科研費はお給料ではないので、研究者のフトコロには入りません(笑)。研究費を獲得したら、そのお金で研究員や技術者を雇って研究室、いわゆる「ラボ」を形成するのです。あ、秘書は多忙な研究者に代わり、事務的なことや雑用を担う存在です。

ちなみに、研究費で自分の通勤用の車を買ったり運転手を雇ったり、「秘書」と称して愛人やお気に入りのホステスさんに研究費からお給料を払ったりしたら、刑事罰をくらいますよ(笑)。

 

―― つまり研究面で目覚ましいものがないと、事務や雑用もご自分で…?

山田さん: はい。そういう先生が「自分も専任の秘書がほしい」などと言ったら、「まずは科研費に採択されて、その研究費で雇ってください。あるいは自腹で雇うかですよ」と言われるだけでしょうね。

ちなみに国公立の場合ですが、大学が運転手つきの送迎をつけてくれるのは、学長とノーベル賞受賞者くらいです。一般の先生方がそんな要求をしたら、「ノーベル賞獲ったのか」なんて笑われてしまいますよ。

 

―― やはり研究者は課題を決めて科研費を申請し、それに没頭するべきなのですね。

山田さん: はい。ただ、私も知っている医学部の救急センターで働いておられた非常に優秀な先生は、患者さんを診るのに忙しすぎて研究にまで手が回らなかったようです。そういう例外はあります。

 

―― そうなると川嶋氏も「あまりにも多忙なので」という感じでしょうか。

山田さん: うーーん、私は今まで科研費を申請しない先生なんて見たことがないです。国公立だと、大学側が「応募しろ、しろ」ってすごいプレッシャーかけてくるんですよ。科研費の何割かは大学の運営費として入ってくるわけですから。

ただ、私立は教員不足が起きているようですから、事情はちょっと違うかもしれません。申請しても通るか否かも、また別の話ですし…。

 

―― ちなみに皇族では、三笠宮家の彬子(あきこ)さまがとても優秀な研究者だと言われていますね。

山田さん
: 『KAKEN』で彬子さまについて検索してみましたが、さすがです。16件もあり、うち1件は研究の代表者として採択されています。立命館大学に職を得た2011年に若手研究の科研費を208万円獲得しておられ、それからずっと途切れずに科研費を受け取っておられるようです。

若手の時代から多数の研究を続けてこられた三笠宮彬子女王(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)
若手の時代から多数の研究を続けてこられた三笠宮彬子女王(画像は『KAKEN』のスクリーンショット)

 

―― 科研費の審査というのは公平なんですよね?

山田さん: 科研費の審査って、実は申請者の名前を隠して行われるんですよ。なので皇族への忖度など一切ありません。彬子さまは大変な実力派だと言えます。

 

―― 申請者の名前を隠すとは驚きました。山田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。とても勉強になりました。



 

■まとめ:テレビ出演も実力次第か

教育の世界で周囲から正しく評価されるには、やはり研究や論文の実績がすべてであることがわかった。「あくまでも国公立の話です」とおっしゃる山田さんだが、優れた内容の研究課題なら採択されるというのは、私立大でも同じではないだろうか。

ここでふと思い出したのは、テレビの情報番組でコメンテーターとして活躍しておられる著名な先生方のことだ。非常に多忙で研究どころではないだろうし、授業の休講も多いのだろう。だが大学から見れば、そうした先生方は素晴らしい広告塔と言えそうだ。

知名度で言ったら今や誰にも負けない川嶋舟准教授。彼もまた東京農大では「大学の顔、広告塔」といわれる存在なのだろうか。多忙さを極めておられる中でも、いつか人気情報番組に登場されるようなら視聴率はかなりのものになり、大学側も大喜びであろう。そのためにも、とにかく優れた研究課題でたくさんの科研費を獲得し、せっせと実績を作っていただきたいものだ。

(朝比奈ゆかり/エトセトラ)

画像および参照:

『東京農業大学』教員紹介 ― カ行

『KAKEN』研究者をさがす ― 今川 和彦 妊娠の制御と成立機構のリモデリング

『KAKEN』川嶋 舟 カワシマ シユウ 研究者番号00401711

『KAKEN』Research Map ― 川嶋 舟Schu Kawashima 論文/MISC

『Wikipedia』川嶋舟

『エトセトラ・ジャパン』紀子さま実弟・川嶋舟氏が安倍昭恵夫人の25億円慈善財団の理事に コロナ禍でもすごい予算書