【皇室、徒然なるままに】第26話:国立大学の財政難と悠仁君の進学先    西村 泰一

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東大のシンボルともいえる「赤門」を正門だと思っている人は本当に多いが…(画像は『URBAN LIFE METRO』のスクリーンショット)
東大のシンボルともいえる「赤門」を正門だと思っている人は本当に多いが…(画像は『URBAN LIFE METRO』のスクリーンショット)

今年2月、こちらのブログで朝比奈さんが東京藝大の財政難に関する記事を書いていました。そこに少しばかり補足し、「今はどこの国立大学でも財政的に大変なんですよ」というお話をしてみたいと思います。



まずは、教育関連の出版社である「旺文社」のウェブサイトから。

財務省は2015年10月下旬、国立大の基盤的経費である運営費交付金の「今後15年間毎年1%削減」案などを示した。政府は12月下旬、28年度予算(案)で運営費交付金を2015年度予算と同額の1兆945億円にすることを決めたが、国立大などの間に波紋が広がっている。

 

国立大の運営費交付金は法人化以降、既に1,470億円(11.8%)削減されており、更なる削減は国立大の財務基盤を脆弱化させ、授業料の引上げなどにもつながりかねない。

 

引用:『旺文社教育情報センター』国立大「財政基盤」の危機!「授業料」引上げにも影響しかねない、財政審・財務省の「交付金」政策!

 

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立命館大学は、国立大学と私立大学では、ひとりの学生が受けられる国からの補助金に「13倍もの差がある」と説明しています。

大学数も学生数も私立大学が断然多いにもかかわらず、学生1人あたりの国庫からの補助金は断然国立大学が多い(画像は『立命館大学』のスクリーンショット)
大学数も学生数も私立のほうが断然多いにもかかわらず、学生1人あたりの国庫からの補助金は断然国立大学が多い(画像はスクリーンショット)
引用:『立命館大学』立命館の財政運営の考え方

 

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日本の学校教育に対する公財政支出は、国際的に見ても大変遅れています。高等教育への公財政支出と私費負担について、『日本私立大学協会』による2022年の発表では、日本はOECD加盟国36か国中なんと30位です。

高等教育への公財政支出と私費負担。OECD加盟国36か国中、2022年、日本は30位と発表される。
高等教育への公財政支出と私費負担。OECD加盟国36か国のなかで日本はここまで低い(画像はスクリーンショット)
引用:『日本私立大学協会』公財政支出と私費負担(国際比較)

 

なお、2009年に文科省が発表したデータでは韓国より低く、日本の「最下位」が話題になりました。高等教育の費用負担は学生納付金への依存性が高く、国内総生産(GDP)に占める高等教育費への財政支出の比率は日本は0.5%で、アメリカの0.9%。フランスの1.1%、ドイツの1.0%に比べ著しく低く、主要欧米諸国の半分程度でしかないことがわかりました。



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わが国の国立大学に対する国際的評価について。こちらはTIMES誌が選んだ名門大学の世界ランキング、2008年度のデータです。日本の大学は、外国人教員比率や留学生比率が低いため、総合順位が下がってしまうそうです。

TIMES誌による名門大学の世界ランキング2008年 東大・京大はこの頃から順位が落ち始めたと言われている(画像は『東京大学』PDFのスクリーンショット)
TIMES誌による名門大学の世界ランキング、こちらは2008年のデータ。現在の東大・京大の順位は残念ながらここまで高くない(画像はスクリーンショット)
引用:『東京大学』国立大学12の真実 ~国立大学の正しい理解のために~

 

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『JB PRESS』による『国立大学の能力低下、法人化は失敗だったのか?』という2020年7月の記事を紹介します。その中の「人事戦略の欠如が若手の待遇劣化を招く」という話題に注目してみました。

若手研究者の待遇が悪く、優秀な学生が研究者を志望しない。また志望しても、身分が不安定なため、研究への意欲を欠く者が少なからずいるという。その通りだと思う。

 

これまでにない着想による先端的研究の担い手は若手研究者だ。わが国のノーベル賞受賞者も多くは若い時の研究が評価されたものだ。若手研究者の待遇が劣悪で研究環境が悪いことについても、法人化後の財源不足が原因として指摘されることが多い。

 

引用:『JB PRESS』国立大学の能力低下、法人化は失敗だったのか?

 

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今年1月、“いかなる権威に対しても屈しない新聞” として知られる山口県の『長周新聞』に、武蔵野学院大学の特任教授・島村英紀さんによる興味深い論稿が掲載されました。

研究面ではホームランが打てなくなった。ホームランか三振か、というバットの振り方ができなくなって、研究者は、安直な内野越えのヒットばかり狙うようになり、短期的な研究成果にこだわらざるをえなくなった。

 

研究者や支援員、教員などの期間は10年とされた。「研究開発能力の強化や教育研究の活性化」を目的にしようとした。

 

しかし10年は意外に短い。若手研究者は内野越えのヒットばかり狙うようになってしまった。つまり、次の雇用につなげるため短期的な研究成果にこだわらざるをえなくなった。

 

この20年間で日本の研究力は下がった。自然・科学系の注目度の高い論文数は世界第4位から10位に後退した。大学院の修士課程から博士課程への進学者数も半減した。

 

引用:『長周新聞』大学でいま、起きていること 武蔵野学院大学特任教授・島村英紀

 

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『現代ビジネス』は2017年9月、国立のトップとされる複数の大学が「雇用崩落」の問題を抱えていることを記事にしました。

国が国立大学に支出する予算は年々削減される一方で、さらなる論文数の減少が懸念される。しかし、問題視すべきは論文数の減少だけではない。筆者はこれから大学で起こる「教職員数の急減」が大学運営により深刻な影響を及ぼすと考えている。そしてそれは、大学のレベルの低下にもつながるだろうと危惧している。

 

引用:『現代ビジネス』東大、東北大…国立大学で進む「雇用崩落」の大問題

 

たとえば東京大学の2016年度の交付金と補助金の状況を見てみると、運営費交付金は740億7700万円で、前年よりも41億8000万円減少。施設費・補助金は94億5400万円で、51億5000万円あまり減少している。

 

おそらく東京大学は、他の大学に比べて「特定運営費交付金」や「プロジェクト補助金」といった競争的資金を最も獲得しやすい大学だろう。それでも1年でこれだけの減額になっているのだから、ほかの大学はそれ以上に悲惨だろう。

 

この結果、大学が自由に使える金が減っているばかりか、法人化前の国の一般会計からの繰入金に含まれていた教職員の人件費が、「運営費交付金」で賄えなくなってしまった。その減少分をなんとかしようと、そのために人件費の削減が進められているのだ。
 

引用:『現代ビジネス』東大、東北大…国立大学で進む「雇用崩落」の大問題

 

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2018年の「高等教育研究」第12集には、九州産業大学基礎教育センターで講師をしておられる中世古貴彦氏の、『研究大学の自律と統制』という論文が掲載されています。

本稿は,近年深刻な財政難に苦しむカリフォルニア州の高等教育における公立研究大学と州議会との対立に注目し,機能別分化政策的な解釈,大学理事会と政府との葛藤を直視しない立場,政策転換自体が必要とする観点からは見出し難い,同州のモデルが含意する大学の自律性の現代的な意義を検討する.

 

財政難の中で州民への背信ともとれる行動をとったカリフォルニア大学に対し,州議会は統制強化を試みた.だが,公的使命の遵守を求めた公権力の介入は,大学が公的使命を果たすことを一層困難にしようとしていた.

 

こうした対立を乗り越え,旗艦州立大学が卓越性追求を維持しつつ社会的使命を果たし続けるためには,政治的独立性に裏打ちされた真正な自律性が極めて重要であったことが明らかとなった.
 

引用:『J-stage』研究大学の自律と統制

 

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厳しい財政状況が続く東京藝術大学では、これまでも学費の値上げなどで資金調達などに努力してきたそうですが、さらに支援を呼びかけるコンサートまで開催されているようです。

厳しい財政状況が続く東京藝術大学で4月15日、「電気代を稼ぐコンサート」が開かれた。藝大の客員教授でもあるシンガーソングライター、さだまさしさんらが出演したコンサートの収益は、文字通り「電気代」に充てられるという。

 

これまで藝大は、教育環境の維持のため、学費値上げやクラウドファンデングによる資金調達などをおこなってきた。しかし、今年2月には、光熱費高騰の影響で、練習室のピアノを撤去したことが大きく報じられるなど苦境は続いている。

 

引用:『弁護士ドットコム』財政難の東京藝大 建物が老朽化、入試中に天窓が破損して受験生に直撃する「事故」も

 

なお、『藝大基金』のHPでも「電気代が財政を圧迫している」として、人々に広く支援を求めています。

東京藝大の財政は、高騰した電気代に苦しめられているという(画像は『藝大基金』のスクリーンショット)
東京藝大の財政は、高騰した電気代に苦しめられているという(画像はスクリーンショット)
引用:『藝大基金』東京藝術大学の電気代へのご支援について

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孟子/梁恵王上には「恒産なくして恒心なし」とあります。安定した財産なり職業なりを持っていないと、安定した道徳心を保つことは難しいという意味です。

また有名な「衣食足りて礼節を知る」は、管子/牧民編にあります。乃木希典さんや昭和天皇のように「衣食足りぬとも礼節を知る」という方は、極めて稀なのでしょう。

秋篠宮妃の紀子さんのように、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界に身を置かれ、「衣食足りても、なお礼節を知らず」という方も、これまた極めて稀なのですが――。

 

江戸時代、拷問や迫害によって棄教したキリシタン(吉利支丹)を、「転びキリシタン」と言いました。

国立大学は今こういう状況ですから、あの秋篠宮家のアンポンタンを入学させることで億単位の寄付金がもらえるとなれば、当然「転び国立大学」が現れてくると思われます。

 

それでは第26話の締めくくりの1曲、『Far Beyond The Sun (Violin Cover)』をどうぞ!

ここでバイオリンの素晴らしい演奏を聴かせてくれる女性は、Jillさんといい、東京藝大の卒業生さんです。ご出身は長野県長野市、かなり「天然」な方なんです。

(理学博士:西村泰一/画像など編集:エトセトラ)

【皇室、徒然なるままに】のバックナンバーはこちらから。
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【西村先生のご経歴】
1966年4月ー1972年3月  洛星中高等学校
1972年4月ー1976年3月  京都大学理学部
1976年4月ー1979年10月 京都大学大学院数理解析専攻
1979年11月ー1986年3月 京都大学附置数理解析研究所
1986年4月ー2019年3月  筑波大学(数学)

画像および参考:
『URBAN LIFE METRO』東大のシンボル「赤門」、実は正門ではなかった!

『YouTube』Unlucky Morpheus official ― 【Cover】Yngwie Malmsteen – Far Beyond The Sun (Violin Cover)

『エトセトラ・ジャパン』東京藝大の財政難など知らんぷり? 悠仁さまの進学で特定の国立大学法人にだけ寄付することの卑劣さ