【皇室、徒然なるままに】第24話:フォックス元メキシコ大統領の回顧録 ひとつの仮説をそこに 西村 泰一
メキシコの元大統領ビセンテ・フォックス・ケサーダ氏は、2000年12月1日より2006年11月30日までメキシコ大統領をお務めになりました。2003年10月に日本に国賓として招かれ、10月15日には宮中晩餐会に来賓としてご出席なさっています。
さて我々皇室ウォッチャーズにとって一大関心事なのが、この晩餐会でいわゆる「雅子さま飛ばし」の事件があったのかという話です。これは、当時の天皇陛下(現在の上皇)が出席者をご紹介になる折に、皇太子(現・天皇)の後、雅子妃をすっ飛ばして秋篠宮家の出席者に移ってしまった、なる件を指します。
この話は、週刊文春2014年11月13日号に友納尚子さんがお書きになった記事で世間の知るところとなりました。
宮内庁は「秋篠宮さまから得た証言」を以て、これをただちに否定しましたが、秋篠宮さまは実際にはその晩餐会に出席していなかったことから、約1年後には 「一部を訂正する」と発表しています。
さて、フォックス元大統領は大統領在任中の回顧録を出版なさっています。この回顧録のなかに「雅子さま飛ばし」事件の記述があるという話が出回り、輸入食品の一ノ瀬さんはそれを根拠に「雅子さま飛ばし事件は実際にあった」という論陣を張っておられます。
ジャーナリストの篠原常一郎さんは、この回顧録を入手されたうえで、「そうした記述はない」と公言されました。続いては、【ゆっくり解説】さんもその方向での動画を制作されています。
◆回顧録は絶対的な根拠ではない
皇室に関しては特に報道規制が厳しい中、週刊文春および友納記者は情報の裏どりを重ね、真実だと確信した上で、情報提供者の安全を守りつつ記事を世に出されました。
「回顧録のなかに雅子さま飛ばし事件の記述があるのか」という話と、「雅子さま飛ばし事件は実際に起きていたのか」という話は、それぞれ別に考えていくべきものです。特に友納さんは、雅子さま飛ばし事件があったということを主張なさるにあたって、実はフォックス大統領の回顧録を、絶対的な根拠と捉えてはいらっしゃいません。
今回、この件について筆をとりましたのは、まだ何の決着もついていないということを申し述べたかったからです。
前者の「回顧録のなかに雅子さま飛ばし事件の記述があるのか」という点でさえ確認はいまだ取れておらず、また仮に記載部分が見つからなかったとしても、それを以て「雅子さま飛ばしはなかった」と結論づけるべきではないのです。
◆私がこれまでにしてきたこと
この件に関し、これまでに私がしたことを簡単に述べておきます。
雅子さま飛ばし事件について書かれているというので、まずはこの回顧録の英語版『Revolution of Hope:The Life, Faith, and Dreams of a Mexican President』を購入しました。
今思うと、この本は内容的にはスペイン語による『La revolución de la esperanza:La Vida, Los Anhelos y los suenos de un Presidente』2007年版とほぼ同じかと思われます。2003年10月の来日時の話で登場するのは、小泉純一郎さんだけです。
次に「雅子さま飛ばし事件は英語版ではなく、スペイン語版に書かれている」という話を小耳に挟んだので、スペイン語の2007年版を購入しました。ところが、これにも出ていません。
続いて、「スペイン語の初版のもののみに叙述がある」という話が耳に入ってきたので、「この初版とは何なのか」ということを探っていく過程で、スペイン語の2001年版の存在に出くわすことになりました。しかし、それを手に入れようとすると毎度2007年版が送られてきてしまう、というお預けを食った格好になっています。
実は気をつけるべきことがありました。この2つの本は著者も書名も出版社もですが、なんとISBN(図書の識別のための国際規格コード)まで同じだったのです。おかげで手元には2007年版ばかりが数冊あり、残念ながらまだ2001年版を手に入れることには成功していません。
◆2つの版を比較
この回顧録には大きく言って、2001年と2007年の2つの版が存在します。篠原さんが確認なさったというのは、おそらく後者の2007年版だと思われます。
また前者について面白いのは、6年間の大統領職の回顧録を、大統領になって数ヶ月で出版するのかという点です。おまけにページ数も、後者が500足らずなのに対し、前者は700ページ弱とむしろ200ページほど多いのです。
◆ひとつの仮説
私はこの謎を解明するために、ひとつの仮説を提案したいと思います。それは「前者の本は当初、オンラインでの出版であったのではないか。そしてオンラインの強みをいかし、フォックス氏は大統領在任中にもどんどん文章を書き加えていかれたのではないか」というものです。
フランスの哲学者パスカルは、友人への手紙に面白い文章を綴ったそうです。
「今日は忙しくて時間があまりなく、手紙が長くなりました」
忙しい時はつい手紙が短くなる、普通はそう思ってしまいますが、そうではないのです。思ったままをただ綴れば長い文章になり、それを十分に推敲し、端的にまとめた手紙を送ってこそ、相手は読みやすくなる。つまりパスカルは、その日はそれをする時間がなかったため、文章が長くなったと言っているのです。
フォックス大統領も当時大変お忙しく、日々の出来事をそこに書き足していくも、それを推敲するだけの時間はとれたのでしょうか。何を書くかと考える十分な時間もなく、単純にどんどん書き加えていかれたのではと想像します。それで700近いページ数にもなったのではないかと。
しかし大統領をお辞めになり、読み返して不要なところを削り、500ページくらいにまとめられたのが2007年版なのではないかと思います。この削られた200ページくらいの中に、雅子さま飛ばし事件のことが書かれている可能性は十分にあると思います。
海外の人々にしてみたら、「雅子さま飛ばし事件」の話なんて、日本の皇室が美智子妖怪とか紀子妖怪とか佳子妖怪とか、いずれ妖怪が跋扈する世界であることを理解していなければ、何のことかさっぱりわかりませんから。
◆皆様にお願いしたいこと
複数のYouTuberさんが「フォックス元大統領の回顧録に書いてある」ということを論拠に、「雅子さま飛ばし事件はあった」と結論づけておられますが、噂だけでそう主張されているとは思えません。輸入食品の一ノ瀬さんほかYouTuberさん、そして皆様の中に、この回顧録、特に2001年版の本を確認された方はいらっしゃいませんか?
もしもおられましたら、こちらのブログ宛て(info@etcetera-japan.com)に、是非ともメールでご連絡ください。日本について書かれていた内容だけでなく、2001年版を見つけたという情報でも助かります。よろしくお願い致します。
第24話の締めくくりの1曲、『Batman vs Superman(2016)』をどうぞ
(理学博士:西村泰一/画像など編集:エトセトラ)
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【西村先生のご経歴】
1966年4月ー1972年3月 洛星中高等学校
1972年4月ー1976年3月 京都大学理学部
1976年4月ー1979年10月 京都大学大学院数理解析専攻
1979年11月ー1986年3月 京都大学附置数理解析研究所
1986年4月ー2019年3月 筑波大学(数学)
画像および参考:
・『Amazon』La revolucion de la esperanza/ The revolution of hope: La Vida, Los Anhelos y los suenos de un Presidente / The Life, Faith, and Dreams of a Mexican President – 2007/11/30
・『Amazon』 Revolution of Hope: The Life, Faith, and Dreams of a Mexican President ハードカバー – 2007/10/4
・『Amazon』 La revolución de la esperanza (Spanish Edition) Tapa blanda – 25 Abril 2001
・『YouTube』古是三春_篠原常一郎 【切り抜き】「ゆるトークランチ」23 06 14より① 2003/10/15宮中晩餐会 メキシコ大統領夫妻。2014/10/29宮中晩餐会 オランダ国ウィレム・アレキサンダー陛下及び王妃マキシマ陛下
・『YouTube』ゆっくり解説 皇室問題 : メキシコ大統領晩餐会事件 ( 雅子さま飛ばし, 大統領回顧録 ) 【ゆっくり解説】
・『YouTube』Real Imperial Story by 輸入食品 ― 971庁長官はメキシコ元大統領に不敬ですぞ!「礼を失する誠に遺憾なこと」
・『エトセトラ・ジャパン』「雅子さまの紹介飛ばし」@2003年メキシコ大統領の晩餐会 調査いまだ続行中です!
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