悠仁さまが高い関心を寄せておられるイネの交配 「育種」研究について長野県のMKさんに教わる 

この記事をシェアする

ここまで、数回にわたり秋篠宮家の長男・悠仁さまによる論文『赤坂御用地のトンボ相 ―多様な環境と人の手による維持管理―』の問題点を論じ、その背景や原因などを分析してくださった長野県で農家を営むMKさん。

初めて筆者にメールをくださったのは、一流大学の教授までが悠仁さまのトンボ論文を「高校生とは思えない質の高さ」と称えている記事を読み、「どこをどう見ればそんな評価ができるのか」と感じたことがきっかけだったそうだ。

悠仁さまがご関心をお持ちだというイネの交配、つまり「育種」とはどのようなものなのか。MKさんが、私のような素人にもわかるようにと、YouTubeの動画なども交えながら教えて下さった。

••┈┈┈┈••✼✼✼••┈┈┈┈••

 

―― MKさん、今回もどうぞよろしくお願いいたします。最近よく「悠仁さまが熱心にイネを研究」と報じられていまして…。

MKさん:はい。トンボからイネに鞍替え?のような情報が出ていますね。イネの育種について研究するのだとか。

 

―― トンボ論文の共著者である飯島 健氏は、イネ、特にコシヒカリの遺伝子を研究していらっしゃった研究者さんですから、色々と教わることができると思います。

MKさん:ただ、イネの新品種を作るというのは簡単なことではありません。長い年月をかけて結果を出していくものですから。

 

―― 農業高校の生徒さんたちが、短い年月でできるような研究、実験はないのでしょうか。

MKさん:たとえば…、どの遺伝子情報が米の食味の「どの特徴」に結びついているのかについて、掛け合わせした「子」にあたるイネのつくる種子、つまりお米が親と成分上どう異なっているか、それを調べることで明らかにしていくといった研究があると思います。そのような研究であれば、比較的短い期間(数年)で一定の成果を出すことができるかもしれませんね。

 

―― なるほどです。では、交配は具体的にどのような実験をするのでしょうか。

MKさん:イネの交配のしかたについて、福井県農業試験場さんの品種開発研究部が制作した良い動画があります。是非そちらを見ていただきたいと思います。

https://youtu.be/zxPjiFzzpo0?si=_hi2RgFAcplNmLDH

―― ありがとうございます。眼科手術用のハサミを使った細かい作業や、43度のお湯に浸けることなども驚きました。知らないことだらけです。簡単にまとめてみますと…。

イネは自家受粉作物で、放っておくと自分から落ちた花粉で受粉してしまうため、それを作為的に違う種類のイネとかけ合わせていく。

あるイネを「母親」と、そしてかけ合わせたい別の種類のイネを「父親」と呼ぶ。父親は、明日あたり花が咲くかも、という状態で刈り取って使う。

そして細かい花粉を、母親に向かってパラパラと落として受粉させる。ここまで完全に手作業なんですね。

MKさん:そのあたりを理解していただいた上で、次は新潟県のホームページから、農林水産部が出している『新潟コシヒカリの軌跡 ~誕生から定着に至るまで~』というページをご覧ください。

コシヒカリという一つの品種が、いかに多くの苦難を乗り越えて現在の日本のコメを代表する品種となったかがわかると思います。

―― そういう研究とともに、1つひとつ病気や欠点を克服してきたのですね。

MKさん:まずは、かけ合わせの結果としてできてくる何十種、何百種のイネに対して、それらから優れた性質を持つものを選抜しなければなりません。

コシヒカリの「親」である農林1号と農林22号の間には、他にもササニシキや豊年早生など、たくさんの優秀な品種が生まれています。その中の一つとして、良食味を発揮したイネが、コシヒカリとして固定されたのです。固定とは、他と混ざったり先祖返りしたりしない状態まで安定させることを言います。

コシヒカリが誕生するに至るまでのかけ合わせ。品質、味、病気への耐性など、大変な試行錯誤が続いたのであろう(画像は『●●●』のスクリーンショット)
コシヒカリが誕生し、現在の美味しいお米に至るまで、品質、味、病気への耐性などかけ合わせの試行錯誤が長い事続けられたという(画像は『新潟県・農林水産部』のスクリーンショット)

 

―― 新潟の「魚沼産コシヒカリ」は日本一美味しいとよく言われますね。

MKさん:コシヒカリは、他にないほどのとびぬけた良食味米です。しかし、栽培するには次のような短所があります。

(1) ややいもち病に弱い。
(2) 気象条件により乳白米が発生することがある。
(3) 茎が長くなり、登熟期に倒れやすい。倒れると稔りが悪く、収穫作業も大変になる。

このうち(3)は、農家にとっては大きな問題となります。実際に私の地方も、それまでの品種からコシヒカリに転換するときに、各農家は二の足を踏んでいました。

倒れないようにするには、追肥を減らして「もみ」の数を減らす、という解決法もあります。しかし、それだと収量が少なくなり、従来米の6~8割くらいしか収穫できないというのが、もっぱらの評判でした。

 

―― 農家さんにも、かなりの腕が求められたわけですね?

MKさん:はい。よほどの技術がなければ作りこなせない…そんなふうにも言われていました。

現在行われている方法でもありますが、そんなコシヒカリを倒さずに多収するための、もう一つの方法が、茎を伸ばし過ぎないようにすることです。

葉鞘をすべて取り除くと、イネの茎は、竹のようにいくつかの節があるようすを見ることができます。イネは節間(せっかん)と呼ばれる節と節の間隔が、下ほど短くなっているのです。

下の方の節間が短いほど、イネは倒れにくくなる。ところがコシヒカリは、この下の方の節間が長くなりやすいのです。出穂(でほ)の25日前頃になると、下の方の節間が伸び始めます。

そして伸び終わるのは、出穂の15日~12日ほど前。その間に肥料が切れている状態とすれば、節間は伸びません。そこで、この節間伸長期に肥料が切れてくるように元肥を少なくする、という方法がとられるようになりました。

そして節間が伸びきった頃に、穂肥(ほごえ)というのですが、肥料を効かすようにします。穂肥は撒いてから効き始めるのにタイムラグがありますから、育て方にもよりますが、出穂の18日前頃に施すことになります。

こうすれば下の方の節間は短く、上が長くなりますので、イネは湾曲はしても倒れることはなくなります。また、穂肥を吸収してイネの茎が急激に太くなることも、倒れにくくしてくれます。

この他にも、田植えの時に苗と苗の間隔を大きくとって、茎そのものが太くなるように育てる方法も実践されている地方や農家もあります。

 

ーー ところで「生きものには個体差がある」と言う方がいますね。イネの世界もアバウトなのですか?

MKさん:トンボはともかく、イネという作物に関しては個体差というものはほぼありません。なぜなら、全ての種・苗が同じ遺伝子を持つようにすることが「育種」なのです。だから、同じ日に田植えをすれば、ほぼ同じ日に出穂を迎えますし、刈り取り時期もほぼ同じです。

個体差が正規分布に従うとして、出穂の茎による差の1σ(前後その幅の間に全体の68%が収まる)が2日程度です。3σつまり前後6日をとると、その中に99.7%が収まります。ですから2週間ずれるということは、皆無に等しいのです。ソメイヨシノがひとつの地域で一斉に開花する、というのも同じ理由です。聞きかじりの知識を主張する困った人は、けっこう大勢いるものです。

 

―― 現場の水田でも様々な工夫と改良が重ねられてきているのですね。イネの品種改良のニュースで「すべての関係者の努力が実り…」と表現されている理由がよくわかりました。

MKさん:コシヒカリでも、各地方の銘柄米でも、皆様においしいお米をお届けすることができるのも、育種に取り組んでいる人々、農家、そしてそれを支える農業関係あるいは流通関連の各機関の皆様の、不断の工夫と努力の結果なのです。そのことを是非知って稲作文化を大切にしていただければと思います。

 

―― はい。このたび教えていただきましたことも肝に銘じながら、お米を大切に、ますます美味しくいただくようにしたいと思います。

MKさん:そうですね、よろしくお願いします。また、お時間がありましたら、こちらの動画もとてもお薦めですので、ご覧になって頂ければと思います。

『YouTube』【福井米研究所 第9回種こなし と 種まき】🌱育苗前の大事な仕事

『YouTube』【福井米研究所 第8回厚み・硬さ・粘り編】粒厚分布と食感測定の様子

『YouTube』【第1回ライス・バトル】~売れるお米を五感で探せ~コシヒカリを生み出した農業試験場で品種開発が進行 研究の様子や研究員の熱い思い🔥など紹介

 

―― MKさん、いよいよお忙しい時期を迎えられたなかでも、今回もこのように丁寧にご指導いただきましたこと、本当にありがとうございました。

 

◆まとめ

1年間に200くらいの組み合わせで交配を試み、それでも結果が出るのは10年くらい後になると、福井県農業試験場・品種開発研究部の方はおっしゃっていた。また、その繰り返しによって現在のおいしいお米が作られ、未来に向かっても研究は続いているという。

悠仁さまが、どのような論文を書き上げる(すでに書き上げられ、どちらかに提出された?)のかは存じ上げないが、長い年月にわたり継続されるイネの遺伝子と交配の研究の、ほんの1シーンに過ぎないところで、「すごいものを発見され、悠仁さまが大きな賞を獲得!」と持っていくのは、いくらなんでも無理がありそうだ。

高校生が参加できる農業系のコンテストがいくつかあるが、イネを専門に勉強し、育種の実験を繰り返してきている農業高校の生徒さんたちにとっては、将来につながる大変貴重な機会になっているようだ。トンボであろうとイネであろうと、悠仁さまがそれを奪ってはならないと改めて強く感じた次第である。

(聞き手:朝比奈ゆかり/エトセトラ)

画像および参考:
『YouTube』稲の交配 また×2新シリーズ‼【 福井米研究所🌾 第1回 稲の交配編】交配作業の映像を研究員が解説します

『新潟県』新潟コシヒカリの軌跡 ~誕生から定着に至るまで~

『J-Stage』赤坂御用地のトンボ相 ―多様な環境と人の手による維持管理―

『国立科学博物館』赤坂御用地のトンボ相 ―多様な環境と人の手による維持管理―