トンボ学会会員や愛好家向け「トンボ通信」 悠仁論文の誤りに関する論考【全文】をご紹介
今年1月、【YOUR VOICE】に福井 順治先生は忘れられない恩人 希少種のトンボ「キイロサナエ」が静岡で発見という記事を拝読という声を寄せてくださった、日本トンボ学会会員の小関 裕兄さんからメールを頂戴した。
あの『赤坂御用地のトンボ相』論文で、とりわけ疑義があがったトンボ写真No.66「アキアカネ」その他に関して、ついにトンボ学会の会員さんが論考を発表されたのだった。
◆小関さんからのメールと論考
まずは小関さんからのメールの前半を、ほぼ原文のまま紹介させていただきたいと思う。
「トンボ通信」の代表である互井賢二先生は、日本トンボ学会の監事です。このたび、互井先生から執筆のご依頼を賜り、謹んでお引き受けいたしました。
私たちは、学術論文とは誠実で正確なものであるべきという心掛けとともに、トンボの研究にあたっております。
そうした思いを一人でも多くの方に知っていただきたく、互井先生より著作権に関する承諾を得て、「トンボ通信231号」に掲載されました拙論考の全文を、ここに紹介させていただこうと考えました。
なお、この論考は特定の人物・組織に対する糾弾を意図したものではないことを、予めご理解いただければと思います。
◆論考の全文をご紹介
『羽化という概念表現について』 小関裕兄
筆者は、2021年に国立科学博物館の専報(紀要)として発表された「赤坂御用地のトンボ相」(秋篠宮悠仁・飯島健・清拓哉)の2か所に概念表現に基本的問題(齟齬)があると考えています。
① 具体的に何がどのように概念表現の基本的問題(齟齬)なのか?
② その基本的な齟齬が起こすであろう問題(影響)
について、筆者はAIとのやり取りを行いました。その結果を参考にし、以下報告したいと思います。
齟齬表現があるというのは「赤坂御用地のトンボ相」の中で掲載されている、図66.の写真と図74.の写真の各々に付されたキャプション(「アキアカネ♀羽化」「コシアキトンボ♂羽化」)との概念表現のことです。
二枚の写真のキャプションには「羽化」とありますが、写真は両方とも「未熟個体」というべきものであり、「羽化」と表現することは基本的な違和感があります。この点について私はAIにプロンプトとして質問を投げてみました。
Q:このような「羽化直後と思しきアキアカネ未熟♀」を「羽化」(コシアキトンボ♂も同様)と書き間違えることは、プロの研究者(例えば昆虫博物館の研究員)ではあり得ることだと思われますか?
An:AIによる回答:結論から申しますと、昆虫博物館の研究員のようなプロの研究者が「アキアカネ(コシアキトンボ)の羽化」という表現を、成虫が止まっているだけの写真に使うことは先ずあり得ません。もし、その立場の人がそのキャプションを付けたのであれば、「書き間違い」というレベルを越えて、専門家として言葉の定義に無頓着であるとみなされてしまう可能性が高いです。
それは以下の3点に集約されます。
1.「羽化」は「現象(アクション)のプロセス」を指す言葉だから
研究者にとって、「羽化(Emergenae)」は、ヤゴ(幼虫)から成虫が現れるプロセスそのものを指します。
羽化:脱皮の真っ最中、或いは翅を伸ばしている最中の「動作」
羽化個体:羽化が終わって成虫の形になった個体
プロであれば、この二つを混同することは「孵化(卵から出ること)」と「幼虫(出た後の姿)」を混同するのと同じ位、不自然なことです。
2.「未熟」という重要なステージ
アキアカネは、羽化してから成熟(体が赤くなる)までに数ヶ月の「未熟期」を山で過ごすという非常に特徴的な生態を持っています。研究者であれば、その写真が「羽化の瞬間」なのか?「山へ移動する前の未熟な成虫」なのかを厳密に区別して記述するのが通例です。
3. 公的な展示や図鑑としての正確性
博物館の研究員は一般の方に正しい知識を伝える立場にあります。止まっている成虫の写真に「羽化」と書いてしまうと、「これが羽化という現象なんだ」という誤解を与えてしまうため、キャプションのチェックには非常に細心の注意を払います。
このようなミスが起きてしまう可能性
・スペースの都合:文字数を極限まで削った結果、不適切な略称になった。しかしその場合でも「羽化個体」と書くべき。
・監修漏れ:本人が書いたのではなく、別の人間が書いたもの(本人(専門家))がすべきチェックが入っていない。
そこで、AIとのやり取りが再開します。AIは、質問者がこの質問領域に関して基本的な知識を持っていて、それによる適切なプロンプトを投げた場合、極めて精確かつ網羅的な回答をします。
Q:実は国立科学博物館の紀要論文「赤坂御用地のトンボ相」に掲載された写真66と74が、それぞれ「アキアカネの羽化」「コシアキトンボの羽化」というキャプションがつけられていたのを発見しました。
An:AIによる回答:国立科学博物館の専報(紀要)という非常に権威ある学術論文に於いてそのような誤記が、しかも複数あるというのは、非常に驚くべき発見です。ご指摘のとおり、専門家が成虫の静止写真に対して「羽化」というキャプションを付ける(つけられていたのをそのまま通す)ことは、本来の定義に照らせば明らかな誤用です。
プロの世界で何故このようなことが起こりうるのか?
・執筆分担とチェックの漏れ:大規模な調査報告(赤坂御用地のような多人数による調査)では、写真のようなキャプション作成を若手研究者や外部委託で行い、主任研究員による最終確認で、研究員が種名の同定(アキアカネかどうか?)に集中するあまり、用語の厳密さを見落とした可能性もあります。
発見の意義
・国立科学博物館の紀要は、後世にわたって参照される重要な一次資料です。そこに「現象」の「個体の状態」を混同させる記述があることは、分類学や生態学の正確さの観点から望ましくありません。
4. 検証の価値(※)
論文は「事実の記録」という性格を持ちます。2つの写真は「羽化の瞬間」ではなく「未成熟な成虫」であることは写真を見れば判ります。さらに、アキアカネ写真66は、羽化してかなり時間が経過した未熟な♀で、他個体だと思われます。羽化直後の薄褐色(体色)ではなく、しっかりと色づいています。翅もピカピカしていませんし、翅脈もはっきりしてきています。
コシアキトンボの写真74は、羽化直後の個体と思われます。翅がピカピカしており、翅脈も明確ではありません。それらの写真に対して適切とは言えない用語の誤用が充てられることは論文の厳密性に欠けるとの問題が生じます。
権威ある機関の紀要であっても、こうした初歩的な用語の誤用がそのまま掲載され、公的な記録として残ってしまう事実は科学的コミュニケーションにおけるひとつの「落とし穴」と言えます。
5.監修責任が重いとされる2つの理由
ィ. 用語の厳密性の担保
「羽化」と「成虫」を混同したまま通すことは、その論文の信頼性を損ねる行為です。
ロ. 教育的・資料的影響
科博の論文は、後の研究者や市民・教育関係者が「正解」として引用する資料です。誤った用語がそのまま「公式」として流通してしまうリスクを監修者は最も警戒しなければなりません。
以上の問題点の上で、論文における用語などには、より厳密な使用にすることが必要であると思う次第です。
主筆・小関裕兄
※ 写真66のアキアカネ未熟♀が時間の経過した他個体であること、それは写真74のコシアキトンボ羽化直後の♂との比較で判ること、の部分のみ互井先生が加筆してくださいました。
(互井 賢二先生、小関 裕兄さん、「トンボ通信231号」に掲載された論考『羽化という概念表現について』を、弊ブログにてご紹介いただき、大変ありがとうございました。)
小関さんは、一般の国民による疑義の訴えが科博に知らん顔をされている様子を、見るに見かねて立ち上がってくださったようにも感じるが、お話を伺うなかで感じたのは、やはり「餅は餅屋」ということだった。
それにしても、きわめて基礎的な部分の言葉選びを誤ってしまったことがわかる、悠仁さまの『赤坂御用地のトンボ相』論文。そもそも、清氏や査読者が付いていながら、なぜこんなことが…?
日本トンボ学会の会員さん、トンボの愛好家さんたちも、小関さんの論考を読んで深いため息をついたはずだ。科博はこの件、いつまで知らん顔を続けているつもりなのだろう。
(朝比奈ゆかり/エトセトラ)
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