中1女子が「その剥製はニホンオオカミでは」2年の研究で見事な学術論文を 原動力は「気づき」と「探求心」
NHK NEWS WEBによる、2月27日付の『はく製は絶滅したニホンオオカミか 気づいたのは都内の中学生』という記事が今、大きな注目を集めている。
話題になっているのは、東京都の中学1年生・小森日菜子さん(13)。小学4年生のとき、茨城県つくば市にある国立科学博物館(以下、科博)の収蔵庫特別公開イベントに出かけ、明治時代の末に絶滅したといわれる日本オオカミの剥製が「ヤマイヌの一種」という名で展示されていることに疑問を抱いたという。
日菜子さんはその後、専門家に質問することを繰り返し、真実を追い求めた。小学2年生のころにニホンオオカミに興味を持ち、図鑑や学術書を調べ、はく製を見てきた経験から、額から鼻にかけての形が平らになっていることや、前脚が短く、背中に黒い毛があるのはニホンオオカミの特徴だと感じた。
その真剣な主張は多くの大人たちに感銘を与え、しっかり調べていくと、剥製は現在の上野動物園で大昔に飼育されていたニホンオオカミである可能性が高いと判明した。標本の歴史に詳しい山階鳥類研究所の研究員・小林さやかさんほか、科博の研究チームのサポートを得ながら日菜子さんは2年かけて論文をまとめ、このほど発表するに至ったという。
なお、小学5年生のときの自由研究で「博物館で見つけたはく製は、ニホンオオカミではないか」とレポートにまとめ、それは図書館振興財団のコンクールで文部科学大臣賞を受賞したそうだ。
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筆者もさっそくJ-Stageで公開された論文を拝見したが、とにかく日菜子さんの論文の読み応え、掘り下げられた内容の濃さには驚くばかり。「外見の特徴がこうだから、この剥製はニホンオオカミです」と安直に結論付けることなく、そこまでの考察が見事なのだ。こういう少年少女は将来きっと一流の研究者になるのだろう。
◆論文の構成を見るだけでクオリティーの高さがわかる!
論文に写真は5点、表は4点しかない。それでも16ページにも至り、引用文献の数はなんと65にも及ぶ。そして論文はこのような順で展開される。これを見るだけでクオリティーの高さが伝わるのではないかと思う。
【概要(英語)】
【はじめに】
(図1. 国立科学博物館が所蔵する「ヤマイヌの一種」とされる剥製標本)
【材料と方法】
<当該標本の既存情報>
1)当該標本のラベルと台帳の情報
(表1. 東京国立博物館,上野動物園,国立科学博物館の年代ごとの名称(東京国立博物館,1973; 国立科学博物館,1977; 東京都恩賜上野動物園,1982)
2)文献による当該標本の記載
3)当該標本の問題点の整理
<調査方法>
1)当該標本の外部形態の検討
2)帝室博物館が所蔵していたイヌ属標本による当該標本の検証
3)上野動物園の飼育記録による当該標本の検証
4)『東京帝室博物館列品台帳』による当該標本の検証
5)当該標本の問題点の検証
【結果と考察】
1)当該標本の外部形態の検討
(表2. 当該標本の測定値とニホンオオカミ標本の既報値の比較)
2)帝室博物館が所蔵していたイヌ属標本による当該標本の検証
(表3. 帝室博物館が所蔵していたイヌ属標本の標本台帳の記載.「震」は1923年の関東大震災で消失した標本,「學」は関東大震災後に学習院に移管された標本を意味する(小林・加藤2017)
3)上野動物園の飼育記録による当該標本の検証
(表4. 1911年までに上野動物園で飼育,死亡したイヌ属の記録)
4)『東京帝室博物館列品台帳』による当該標本の検証
5)当該標本の問題点の検証
【謝 辞】
【引用文献】
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いやはや、日菜子さんは日々の勉強の傍ら、どれほど大量の資料を読み漁ったのだろう。それを文章にまとめていった大変なご苦労について、日菜子さんは「原動力は探究心。新たな謎が出てきては調べ、大変だけれど解くことは楽しかった」とおっしゃっている。
◆最新号のウェブ公開が楽しみ
NHKの報道では、国立科学博物館は今月22日に発行した電子ジャーナルに日菜子さんの論文を掲載したとある。
だが、科博のホームページから『学術出版物/国立科学博物館研究報告 A類(動物学)』を確認してみたところ、いまだ最新号は『赤坂御用地のトンボ相』を含む昨年11月に発行された号になっている。
早く最新号をウェブでも公開して頂きたいものである。
◆ひょっとして小森日出海さんのお嬢様…?
ところで、「謝辞」にはこのようなことが書かれていた。
資料は東京国立博物館と上野動物園資料室で閲覧し、東京国立博物館の資料については、マイクロフィルムから読み取れなかった部分を元資料から調査する機会をいただいた。資料調査にあたっては,小森日出海氏に多大なご協力をいただいた…。
この方が、もしもお父様であるとしたら…。ひょっとして日菜子さんは、映画制作をなさっている小森日出海氏のお嬢様でいらっしゃるのだろうか。
(朝比奈ゆかり/エトセトラ)
画像および参考:
・『NHK NEWS WEB』はく製は絶滅したニホンオオカミか 気づいたのは都内の中学生
・『J-Stage』国立科学博物館所蔵ヤマイヌ剥製標本はニホンオオカミCanis lupus hodophilaxか? 小森 日菜子, 小林 さやか , 川田 伸一郎
・『国立科学博物館』学術出版物 ― 国立科学博物館研究報告 A類(動物学)