【皇室、徒然なるままに】第73話:上級審への旅立ち 裁判 Part Ⅱ     西村 泰一

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物損事故を起こした件の裁判で、一審の判決に不服があった私は、控訴の手続きで土浦市の裁判所の事務室へうかがった。ちょうど昼休みの時間帯で皆さん昼飯を食べておられ、和気藹々とした雰囲気であった。

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弁護士を相手に雄弁を振るい、独力であの判決を勝ち取った私はかなり話題になっていたらしく、色々な方から次から次へと話しかけられた。目立つことが大嫌いな私としては、ただただ恐縮した次第である。



二審は東京高等裁判所で行われ、一回だけ足を運んだ。地裁の類は結構な数があるが、高裁はぐっと少なくなる。最高裁に至っては日本にただひとつしかない。

地裁の皆さんには自転車で近所を回り、郵便物を配達してくれる郵便局員さんのような丁寧さや親近感を覚えたが、高裁でその「取り扱い」を期待するのは難しい。そんなことをしていたら、高裁がパンクしてしまうのである。

 

【高裁に出廷する】

相手の弁護士の方は、私よりかなり遅れて高裁に現れた。旧知の友人に出会ったような感じで、「コンチワ」と挨拶しようとしたが、彼はなぜか私から距離を取ろうとする。どうも嫌われたらしい。

地裁と違って、高裁では3名の裁判官がチームとなって担当される。裁判官は職業上あまり感情を表に出さないといわれているが、中央の裁判官はちょっと違った。私の服装にかなり驚いたような表情をされるので、私のほうも驚いてしまった。

春でもう暖かかったこともあって、私はTシャツにジーンズ、そして素足にサンダル履きであった。ニューヨークに渡ってからの眞子さんの服装がよく話題になるが、あんな感じだと思っていただいてよい。

ただ、裁判所に行くとあって私はそれなりに気を使い、安倍晋三さんの写真が大きく胸に踊っているTシャツを選んでみた。それがどうも逆効果だったようである。

前にパートから帰宅したカミさんに、「あなた、今日ひょっとして私の職場に来た? 見かけない男の人が来たと話題になっていたのよ」と言われたことがあった。よく聞くと「私は会ってないんだけど、浮浪者みたいな感じだったらしくて」と言うので、ちょっと夫婦喧嘩になってしまった。

 

【調停を勧められる】

高裁では調停を勧められた。つまり「話し合いで解決しましょうよ」というのである。

裁判所が調停を持ち出してくる折には、必ず調停案も出してくる。「一審の判決で言い渡された損害賠償金70万円から、20万円ぐらい減額してはどうか」という案で、私からはすでに70万円を相手方に支払ってあるので、この案のとおりになれば、お金が少し戻ってくることになる。

そして、調停に移るためには原告・被告双方の同意が必要になる。私は快諾したが、先方の弁護士は「依頼主から『調停は絶対受け付けるな』と固く釘をさされている」との一点張りであった。

裁判所も、せっかく調停案を出してくださったのである。私が「人の親切は素直に受けるもんですよ」と言ったところ、また中央の裁判官が驚いたような表情をされた。とにかくよく驚く裁判官である。

そんな私の一言も功を奏し、先方はしぶしぶ調停に応じることになった。それで調停のため場所を移動することになり、相手の弁護士の方と一緒にエレベーターに乗り込もうとしたところ、あからさまに拒絶されてしまった。行く先は同じなのに、エレベーターを降りてしまったのだ。イヤハヤ、随分とケツの穴の小さいお方である。

 

【調停に4時間もかかった理由】

調停は随分と時間がかかった。私が東京高裁を訪れたのは午後1時くらいだったと思うが、調停は午後5時位までかかり、にもかかわらず決裂してしまった。

理由は、弁護士がつくば市におられる一審の原告、つまり依頼主と携帯電話で延々と話しておられたためで、これにとてつもない時間がかかったのである。

弁護士の方は「調停案は受け入れたほうがいいですよ」と説明されているように思えたが、依頼主がとにかく頑固なのである。随分と時間が経ってから、やっと「1万円か2万円なら返してもいい」と言ってきたので、これは私が突っぱねた。

せめて10万円くらい提示してくれれば、私は受け入れたであろう。私としては、お金の問題よりも相手の人物の器量をみていたのである。せこい人間は私は大嫌いである。それで結局調停は決裂してしまい、二審は裁判官の判断に委ねることになった。

 

【調停案はおとなしく受け入れるべし】

裁判所が調停を勧めて調停案を出してきたときには、「その調停案は判決を先取りしたものだ」と思っていい。案の定、二審の判決は結局20万円くらいを私に返しなさい、というものとなった。

弁護士さんは、そういったことを依頼主に説明しておられたのだと推測するが、依頼主の方はそれに聞く耳を持とうとなさらなかった。この依頼主の方を、私は実はよく存じ上げていた。私と同じように、筑波大学の教員だったのである。

そして高裁が調停を勧めるのは、単純に調停で話を決着させてくれれば裁判所としても判決を書かなくても済む、ということがある。

判決は判例となって後の裁判へも多大な影響をもつことから、裁判官はかなり気を使いながら判決を書くという。前述のとおり高裁は大変な量の案件をかかえており、判決を書くこと自体がかなりの重労働。少しでも手間を減らしたいのである。


【上告は受理ならず】

学校では裁判は三審制と習ったかもしれないが、実際には二審制である。最高裁への上告には非常に厳しい制約が課されていて、「最高裁にあげてもいいか」を2段階で選抜するのである。

まず高裁で審査し、次に最高裁の委員会で審査する。私も上告してみたのであるが、高裁の審査はパスしたものの、最高裁の審査で振り落とされてしまった。

――というわけで、最高裁への出廷は叶わず残念無念! また機会があれば、チャレンジしてみたいと思っている。

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それでは第73話の締めくくりの1曲、The Rolling Stonesの「The Rolling Stones – Angry (Official Music Video)」をどうぞ!

(理学博士:西村泰一/画像など編集:エトセトラ)

【皇室、徒然なるままに】のバックナンバーはこちらから。



【西村先生のご経歴】
1966年4月ー1972年3月  洛星中高等学校
1972年4月ー1976年3月  京都大学理学部
1976年4月ー1979年10月 京都大学大学院数理解析専攻
1979年11月ー1986年3月 京都大学附置数理解析研究所
1986年4月ー2019年3月  筑波大学(数学)

画像および参考:
『YouTube』The Rolling Stones – Angry (Official Music Video) ― The Rolling Stones