<元外資系CAその世界を語る>Vol.13 緊張感みなぎる空の仕事 ファーストエイド=救命救急

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 ミュンヘン・ステイでベネツィアへ(Photo by 佐藤めぐみ)
ミュンヘン・ステイでベネツィアへ(Photo by 佐藤めぐみ)

~外資系エアラインのCAとして世界81都市に飛んだ日々~

真剣な訓練、研修のひとつが、お客様が機内で起こす可能性の高い体調異変について学ぶことです。飛行機酔い、風邪による諸症状、食あたりによる下痢や腹痛であればクルー自身も経験があるためなんとか対処できるものですが、喘息やけいれん、過呼吸、パニック発作、脱水症状、失神、骨折、糖尿病の症状、低血糖、高血糖、激しい頭痛、心筋梗塞や狭心症などは私にとっては未知の世界でした。それらについては前兆についても学び、その段階の訴えに気をつけることで大病の発症を未然に防ぐよう、こちらも精一杯努力しました。低血糖や高血糖で対処法が異なり、「心臓発作」と言っても心筋梗塞と狭心症の2つに分類され、それぞれに対処法が違うため本当に真剣な勉強でした。



フライト前のブリーフィングでは、そのあたりの知識も一問一答形式で毎回のように確認されますから、症状、前兆、対処法、お出しするお薬の名前などをしっかりと答えなければなりません。ところが常備されている20種類ほどの薬はすべて外国製で、聞いた事も見たこともない横文字のパッケージばかりなのです。制酸作用のある胃薬「アンタシジン(Antacidin)」は、“胸焼けするアンタ(は)詩人”。自分なりの語呂合わせと工夫で、薬の名前を頭に叩き込んだものです。

ところで、「機内に急病のお客様がおります。お客様の中にお医者様、看護師様はいらっしゃいませんか?」というアナウンスを耳にした方も多いのではないでしょうか。フライトがもたらす体の不調には深刻なものも多々あり、機長が心臓発作を起こしたことすらありました。飛行機が上昇すると地上の70~80%、富士山の5合目程度にまで酸素が薄くなり、気圧も低下しますから、乗っているすべての人の体に色々な変化をもたすことになります。代謝が弱まり基本的に体がむくみやすくなる上、機内では地上の2倍お酒に酔いやすくなります。また、どこかに出血中の傷がある場合には出血や痛みが増し、かさぶたが剥がれて再出血したり、傷跡や手術跡が膨らんだり傷んだりもします。

また臨月近くの妊婦さんが産気づいてしまうことがあり、フライト中に出産という緊急事態も実は珍しくありません。そのため私達クルーは出産介助の手順も少しばかり習います。私にとって最も不安でならなかったのが、この突然の出産に立ち会うことと心臓発作でした。何しろこの2つは私のいたエアラインだけでも2か月に1度の割合で起きており、その話はいずれ必ず伝わってくるのです。そして残念なことに、心臓発作を起こした方で助かったという話は聞いた事がありませんでした。深夜のフライトでしたが、搭乗された時はご夫婦ともにお元気だったのに、目的地の到着が近くなり、奥様が「起きて」と声をかけたら旦那さまが隣で冷たくなっていた、というケースがほとんどでした。奥さまがぐっすりとお休みの間に旦那さまが心臓発作に見舞われたものと考えられます。



心臓発作を起こすのはお客様だけではありません。健康状態には人一倍気を使っているはずのパイロットでも、機長がフライト中に心臓発作に襲われるというアクシデントが1度ありました。フィリピンのマニラから離陸した30分後、突然機長は胸を押さえて「苦しい」と訴えたそうです。心臓発作と判断した副キャプテンはすぐにクルーを呼び出し、人工呼吸などの応急手当をさせました。その間副キャプテンは1人で操縦をしながら最寄りの管制塔に緊急着陸のリクエストを出し、その時一番近かったマレーシア・クアラルンプールの空港から着陸許可が下り、緊急着陸となりました。機長はその時すでに心肺停止に陥っており、残念ながら亡くなりました。緊急事態にもお客様をできるだけ動揺させないよう、コックピットとCAはあくまでも冷静に対応する。このことの重要性を強く認識し、日ごろのブリーフィングや時おりの研修はさらに真剣なものとなったことを覚えています。

>>> Vol.14 「緊張感みなぎる空の仕事 実は多い各種のトラブル」に続きます >>>

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(佐藤めぐみ/エトセトラ)



<目 次>

Vol.1 子供の頃から“スチュワーデスのお姉さん”になりたかった私

Vol.2 こんな皆さんに読んで頂きたいです!

Vol.3 なぜ米国のエアラインを選ばず、中東のエアラインに狙いを定めたのか

Vol.4 地獄の訓練

Vol.5 初めての乗務 泣いて笑って

Vol.6 お客様も色々な方が…王族の乗務、そして男性客のセクハラ

Vol.7 クレームはやっぱり怖い

Vol.8 ロングフライト中のクルー交代制度

Vol.9 整容検査(グルーミングチェック)は厳しい 美容整形はOK?

Vol.10 CAは美の競い合いの世界 人気のコスメはやっぱり…

Vol.11 空飛ぶ美しいオカマちゃんたち

Vol.12 緊張感みなぎる空の仕事 フライト前のブリーフィング

Vol.13 緊張感みなぎる空の仕事 ファーストエイド=救命救急

Vol.14 緊張感みなぎる空の仕事 実は多い各種のトラブル

Vol.15 CAの仕事は危険と健康不安がつきもの

Vol.16 CAになるとイイ思いをすることも多いの? もちろんイエス!

Vol.17 CAになるとイイ思いをすることも多いの? 航空券ほかの優遇制度

Vol.18 大好きなアノ方たちとの極秘2ショットは私の宝物

Vol.19 若い女性だもの恋はしていたい! パイロットとの恋愛は? まさかの不倫は?

Vol.20 若い女性だもの、恋はしていたい! ゼネコンや商社の男性たちとの合コンは?

Vol.21 素晴らしい社員寮! でもインターネット環境は…!?

Vol.22 イスラム教徒の国に暮らすことの真実

Vol.23 日本人CA同士の絆と結束 外出時に利用する交通機関、実は…。

Vol.24 クルーの出身は世界各国 ビジネス・ファーストクラスへの昇格は?

Vol.25 クルーの出身は世界各国 やがて見えてくるそれぞれの国民性と苛立ち

Vol.26 お客様から学んだこと カルチャーショックの連続

Vol.27 お客様から学んだこと 日本人旅行客にみるオバチャンたちのたくましさ

Vol.28 UFOに遭遇するって本当? 見た場合はどう対処するの?

Vol.29 乱気流でわかる揺れやすい席 万が一の時に安全な席

Vol.30 飛行機に乗ること自体が「とても怖い」という方へ

Vol.31 世界の危険な国々

Vol.32 雇用は3年ごとに更新。最初の3年を満了しただけで退職した理由

Vol.33 家族に万が一のことがあった場合は!? 緊急時に帰国は許されるのか

Vol.34 中東の二強エアラインを簡単に比較

Vol.35 CA受験合格に王道なし 学歴は?留学は?スクールは?

Vol.36 CA受験合格に王道なし 留学、そして専門学校の必要性は?

Vol.37 実際の試験はどのように行われたのか

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